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入籍前夜

日本での同性婚制度施行後、そのニュースが毎日のようにテレビで流れる。 そんなニュースを大きなソファでぼーっと見ている男がいる。 佐藤和也(さとうかずや)21歳。 働いておらず、毎日家事をせっせとこなす専業主夫だ。 髪は長めのウルフカットで茶髪、ひょろっとした躯体、背は小さく163cm、くりくりとした大きな茶色い瞳が特徴だ。 だぼっとした可愛い柄のTシャツが好きでお気に入りのハーフパンツはアーミー柄。 和也には、9歳年上の彼氏、佐竹真(さたけまこと)がいる。 家は3LDKの広めのマンションで、付き合ってすぐに真が購入した。 二人がこのマンションで同棲して3年。 テレビの中からは、芸能人のカミングアウトや同性婚したカップルのインタビューなどが次々に流れている。 「なんか・・結婚って・・実感ないけど・・・明日から家族になるんだよな・・・」 和也はひとりごちると、急に恥ずかしくなってクッションにぽすっと顔を埋めた。 暫くするとチャイムが鳴り、真が帰宅した。 「・・・ただいま」 真は短い整えた黒髪に、黒い瞳、綺麗な銀ラインの眼鏡が光る。 いわゆるリーマンで、身長は180cm、体格は和也とは違って大きく、しっかりした筋肉がついているが、スーツだと着やせして見える。 「真さん、おかえりなさい!お疲れさま♪」 和也は嬉しそうにキッチンに走り、いそいそと準備を始める。 今日のメニューは真が大好きなものばかり。 明日は家族になる日なのだからと和也が考えに考え、カニのサラダ、フライドチキン、麻婆豆腐、コーンスープ、白いご飯・・食後はケーキ・・と所狭しとテーブルいっぱいに並べる予定だ。 真はテレビを一瞥するとネクタイを緩めながら溜息をつき言う。 「ふぅ・・・またLGBTニュースか・・・」 和也は楽しそうに食事を温め直しながら答えを返した。 「毎日毎日よく飽きないで放送するよね~」 「そうだな・・」 「まぁ、当事者の僕から見ても飽きてきたなぁ~~~」 「・・ふむ」 「ねぇねぇ、今日はサラダもあるんだよ~~~♪」 「・・うん」 「えへっ♪だって僕たちも明日じゃん?ちょっとご馳走作ったの♪真さんが好きなものだらけだよ♪」 「・・シャワー浴びてくる」 「うんっ♪ゴハン食べられるようにしとくねっ♪」 和也はウキウキしながらフライパンを振るっている。 真は口数が少なくとっても口下手で、時々これが元で和也が泣き出し、ケンカのようになってしまう。 暫くして真はシャワーを浴び、和也は用意をし、二人で食事にありついた。 食事のときはテレビを消して話をするのが二人の約束事だ。 「いっただっきま~す!」 和也はいつものように美味しそうにご飯にありつく。 「いただきます・・」 真は神妙な面持ちになりつつ言った。 和也は楽しそうに今日あったことを話し、真はそれをうんうんと聞く。 会話をごちそうに美味しいご飯。 これが二人の毎日だ。 ・・ところが、今日の真は少しだけ影がある。 和也はそれに気付いたが、気付かない振りをする。 本当は明日のことを話したいのだが話せる雰囲気にならない。 せっかく作ったご馳走も感想がもらえない。 和也は不安ばかりが大きくなっていく。 ----それもそのはず、明日は二人の入籍日。 二人が婚姻届を提出する日で、結婚することになっている。 この入籍は、同性婚法が施行された日に和也が「結婚できるならしたい!」と真に言い出したことだった。本当に入籍するかどうかなどあまり実感もないままに日取りだけ決め、いよいよ明日がその入籍予定日だった。 指輪は真が「用意する」とだけ言っていたが、渡される気配はない。 それどころか、婚約指輪も交わしていない。 二人はいつの間にか双方ともに黙ってしまい、黙々と食事をした。 「・・・ごちそうさま」 真はそのまま不穏な表情を浮かべる。 「うん・・・僕もごちそうさま・・・」 和也は真と目を合わせづらくなり、立ち上がって片づけを始める。 食後のケーキなど言い出せる雰囲気もない。 ・・・カチャカチャ・・ザー・・・ 和也は食べ終わった皿を洗い始め、テレビを見ている真の背中を見る。 やっぱり何か影がある・・和也は涙が滲んできたが、無心で皿を洗い考えないようにする。 すると、いつの間に傍に来たのか、真は和也を後ろから急に抱きしめる。 「びゃっ!?」 和也は驚きすぎて変な声を出した。 「なぁ、和也・・・」 神妙な顔つきで真は言った。 「・・・えっ?・・何?」 抱きしめられながら和也は動揺を隠せない。 「・・・本当にすまない」 そう言って和也の背中に顔を埋める真に、和也は不安げな表情で聞く。 「なんで謝るの・・?もしかして・・・(やっぱりイヤになった?)」 和也は最後の言葉を言えなかった。 「・・・・・」 真は無言になってしまった。 「・・・・ねぇ・・・なんか言って・・」 和也は聞く。 「・・・・本当にすまない・・」 真は謝るばかりだった。 真は和也の向きを変え、抱き締めなおすと和也の胸元にまた顔を埋めた。 「・・・ごめん」 また真は謝る。 もしかして嫌われたのではないかという急な不安が和也に押し寄せたが、 どうせ振られるなら、自分からせめて言いたかった。 「明日のこと・・・(やっぱやめよう・・・!!)」 和也はまた最後の言葉が言えない。 「・・・・・・」 真は無言になるばかりだ。 和也はじれったくなり、真にすがりつきながらこう言った。 「僕はさ、真さんが幸せな方がいいから・・」 ---いつの間に涙が出たのだろう。 和也の茶色い大きな瞳からポロポロと大粒の涙が溢れる。 「ごめ・・なさ・・っ・・泣くつもりじゃ・・なか・・た・・っ・・」 ひっくひっくと泣き声を殺しながら泣く和也の髪を 真はくしゃくしゃと撫でながら言う。 「和也・・・もしかして勘違いしていないか?」 真は和也の頭をなでなでと撫でる。 「だって・・っ!!やっぱり・・っ・・結婚やなん・・で・・しょ・・・!!」 言葉で言ってしまうとぶわっと涙がこぼれ落ちる。 和也は止まらなくなり、わんわん声をあげて子どものように泣き出した。 そんな和也の姿を見て、真は慌てたように言う。 「・・・いや、すまない、違うんだ。誤解しないでほしい・・  謝ったのは今日出来上がる筈の指輪がまだできていないって連絡が・・・」 「!?」 和也は泣き腫らした大きな瞳でびっくりした顔をし、 今度は違う意味でポロポロと泣きだした。 「振られちゃうんだ・・・と・・っ・・・思・・・た・・・・・」 和也は力が抜け、へなへなとキッチンの床に座り込んだ。 「・・・すまない・・俺はいつも言葉が足りないな・・・」 真はバツが悪そうに座り込んだ和也のすぐ前に腰を降ろし和也の髪を撫でた。 和也は傍にいる真に抱きついて大声でわんわんと泣き続ける。 そんな和也を真は包み込むようにぎゅっと抱き締め、 涙に濡れた和也の潤みきった大きな瞳を覗き込みながら謝った。 「明日・・・ちゃんと出来上がるそうだから・・・すまない・・」 「・・・・やだ・・・許さない・・・」 和也はふくれっ面で頬をぷうっと膨らませながら言う。 「よしよし・・・」 真は困った顔で和也の頭を再度いいこいいこという様子で撫でる。 「だめだもん・・・っ!!許さないもん・・・っ!!」 さらに和也はぷーっと頬を膨らませ、ポロポロと涙をこぼした。 「許してくれないならこうする・・・」 真は和也に深いキスをし、ねっとりと舌を絡める。 「ん・・・っ・・・ゃあ・・・っ・・・」 そのまま真はキッチンの床に和也を押し倒し、長い長い甘い口づけをする。 「ん・・ぅ・・・・・・」 和也は泣いていたせいで鼻がつまって息が続かず、ぱっと顔を離した。 「・・ぷは・・っ・・やだっ・・!!こういうのずるい・・っ!!」 和也は駄々っ子のように頭をぶんぶんと振る。 そんな様子で諦めたのか、真は和也をひょいっと抱え上げた。 「やだ・・っ・・・絶対許さないもん・・・っ」 和也がジタバタと抵抗するのをものともせず、真はそのままベッドルームに向かった。 つづく

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