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好み

「慎ちゃんだっていないじゃん、ずっと」  尚人がイタいところをツッコんできた。 「……出会いがないからな」 「えーあるじゃん、いっぱい。職場だったら。慎ちゃんのこと狙ってる子もいるって聞いたよ」 「俺は聞いてない」 「本人に言うわけないじゃん」 「俺、好みうるさいし」 「そうだった? 初めて聞いた、そんなの。じゃあ、どんな子がいいわけ?」 「……そうだなぁ。色白で綺麗な子がいいかな。しゅっとした顔で、目は細長で涼しい感じで。あと髪は黒くてさらさらでさ。唇は厚くてぷっくりしてたら最高」 「……なんか妙に具体的じゃない?」 「そうか? 今思いついただけだけど」  と言いながらも心の中で舌を出す。今言った好みには一応モデルがいる。とは言っても男だし、雲の上の存在みたいなものなのだが。 「ふーん……」  尚人が疑わしそうに慎弥を見たが、気づかないフリをした。  慎弥がゲイだということは、尚人も知らない。うっかり知られたとしても、尚人が言いふらすような人間じゃないというのは分かっている。  問題はそこではなくて。尚人にも黙っているのは、知られることにより尚人という友人を失いたくないという気持ちがあったからだ。  同性愛者や異なるセクシャリティーが段々と受け入れられるようになったとはいえ、まだまだ日本では偏見も多い。理解しようとしてもどうしても受け入れられないという人間もいるだろう。  尚人がどう捉えるかは分からないが、もし受け入れられなかった場合、尚人は慎弥から離れていくだろう。それが今は嫌なのだ。  いつかは明かさなくてはならないだろうけど。まだ、その心の準備ができていない。  これ以上色々と探られるのは避けたかったので、話題を変えてはぐらかした。その後は駅に着くまで恋愛話には一切触れないように気をつけながら、尚人と帰路を歩いた。

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