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高橋くん

 そうこうしている内に第3クォーターが始まってしまった。大きな歓声がテレビから響く。とりあえず静止しようとリモコンに手を伸ばした。すると、そのタイミングで電話の向こうから声がした。 『……バスケ?』 「え?」 『バスケ見てんの?』 「そうですけど……。よく分かりましたね」 『……俺も好きだから』 「え? そうなの? これBリーグの試合のだけど、見たことある??」  周りにBリーグに興味がある人間がいなかったためか、バスケが好きと聞いて嬉しくなり思わず馴れ馴れしく話してしまった。言ってからしまった、と慌てて謝る。 「あの、すみません。馴れ馴れしく。俺の周りでバスケ興味ある人いなくて。ちょっと嬉しくなっちゃって……」  すると、意外にも電話の相手はその話題に乗ってきてくれた。 『いいよ別に。俺もよく見るし、Bリーグ』 「ほんとに? うわぁ、奇遇だな」 『どこのチームが好きなの?』  そう聞かれて、須藤の所属チームを挙げた。 『ああ……あそこか、まあまあ強いよな』 「まあまあどころか、めちゃくちゃ強いよ。去年のリーグでも優勝してるし。選手みんなレベル高いし。特に、そこに須藤って選手がいるんだけど、知ってる?」 『……名前は聞いたことあるけど……』 「めちゃめちゃ上手いよ! オフェンスもディフェンスも凄いし、いつも冷静でよく周りを見てるし、あの選手がいるからチームがまとまってるって感じなんだよね」 『そうなんだ』 「うん。今度機会あったら見てみて」 『分かった。見てみる』  そこから、しばらくBリーグや、バスケ自体の話で盛り上がった。電話の向こうの彼は、バスケが好きだと言うだけあって、知識も豊富で慎弥が知らないようなことも知っており、とても楽しい会話が続いた。  夢中で話を続けていたが、ふと、彼の最初の目的は友達に電話をかけることだったのを思い出した。 「ごめん。友達に電話しないといけなかったんだよね?」 『ああ……まあ……』 「そしたら切るね。俺の会話に付き合ってくれてありがとう」 『いや……』 「じゃあ」  そう言って電話を切ろうとしたとき。相手の声が携帯から聞こえてきて、慌てて再び耳に当てた。 「え? なに?」 『……また、電話していい?』 「……え?」 『いや……もっと話したいな、って思って。バスケのこととか』 「ああ……うん、もちろん」 『そしたらまた』 「あっ! ちょっと待って。名前教えてくれる? 電話で話すのに名前知らないとなんか変な感じだから。あ、嫌じゃなかったらだけど」  そう言ったところで、自分も名乗っていなかったことに気づいた。 「俺は、中村」 『中村……くん』 「中村でいいよ。で、なんて呼んだらいい?」 『……高橋(たかはし)』 「そしたら高橋くん。またね」 『じゃあ』  そうして電話は切れた。 『高橋』くんか。思わぬところで同じ趣味を持つ仲間と会えた。慎弥は心が弾む感覚を味わいながら、すでに再生が終わってしまっていた録画をリモコンで第3クォーター始めまで戻した。 ーーーーーーーーーーー ここまで読んでいただき、ありがとうございます。試し読みはここまでです。続き(加筆・修正版になります)は電子書籍で公開しております。もしご興味のある方がありましたら、ぜひ電子書籍の方をご検討いただけると幸いです。

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