3 / 27
第2話
「よくやったーーーー!!!!」
編集長の神松 は連日上機嫌だ。この間の宝石君のインタビュー記事でずっと低迷気味だったうちの雑誌【R30 7月号】の売り上げが爆上がりしたからだ。強引な内容で取材はしたものの、先方への確認段階で絶対NG喰らうだろーなーーと思っていたあの童貞の記事とかまさかの掲載OKで、今までほとんど秘密にされていた宝石君のプライベートをかなり晒した内容になってたからなーー。
「し・か・も! だよ! 3日住み込みでの密着取材依頼キターーーー! 依頼だよ! 依頼! 他社が地面に頭擦り付けて頼み込んでやっと取材させてもらっているのに、あちらさんから『お・ね・が・い・し・ま・す!』だよ! おまえ一体何やったんだよーー! いやなんでもいい! お前を雇ってほんとーーに大正解だった! ありがとう! 黒木! ありがとう見る目のあったあの日の俺!」
この間まで散々お前は頭が硬いとか、時流を解っていないとかブツブツ言っていたくせにほんと調子いい……しかし正直自分でもわけがわからない。なぜ俺? インタビューした時の態度が気に入らなくて、まさか復讐とか考えてるんじゃないだろうな。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
首が痛くなるほど高くそびえるタワーマンション。
しかも永田町って……すげー威圧感。庶民の俺を睥睨しているようにしか見えない。
サラリーマンの悲哀。もちろん断ることは出来ず、またここにやってきた。しかも今度は3日お泊まり。なんだろーーやっぱ罠なんじゃないだろうか? 信者からボコ殴りにされんのかな? 撮影チームと来たかったけれど俺ひとりのみと言う条件もなんか怪しすぎるし……しかし考えても仕方がない。重い足をなんとか右左交互に出して真っ黒い大理石で出来ているんだろうなーーのエントランスに進んだ。
「この度は密着取材をお受けいただきありがとうございます」
またあのデカい机を挟んで頭を下げた。
「学習してないねーー大体今度はこっちからお願いしてるんでしょーー」
相変わらずの口調で宝石君が返事をする。この間の女性マネージャー(多分)はすっごい形相で俺を警戒してるし。なんかいたたまれない。しかしこちとら庶民は生活が掛かっている。なんと思われようとも再度売り上げを爆上げするような美味しいところを取材して土産にしなければ帰れないマッチ売りの少女スピリットだ!
「密着取材とのことですが、すぐ撮影に入ってよろしいでしょうか?」
「いいよ。ちょうどこれから動画とるとこ」
動画ってYouTubeのことだよな。大体1日2回の撮影。それで月収億越え……うらやましすぎる。今回は映像のOKも出ている……が自分で回さなくちゃならないのが難儀だなーー。慌てて撮影機材をカバンから出して用意した。
「とりあえず適当についてきてよ」
言うと宝石君はソファーからひらりと降りると続き部屋になっている隣の部屋に移動した。慌ててカメラを回しながら後を追う。あれ? 歩く速度がちょっとおかしい……? 足を怪我してるのか、右足が遅れていた。
部屋にはスタッフらしき女性が2人いて宝石君が大きな鏡の前に座ると、無言でメイクを始めた。もう一人は後ろで服(衣装?)を用意している。専属のメイクとスタイリストってわけか、すげーーな。女性スタッフは黙ってカメラを回している俺を訝しげに一瞥した。
「ごめんねーー密着取材なんだーーいないと思っていいから」
宝石君が言うと二人は返事をすることもなく目線を戻すと作業を再開した。なんだろう? 返事すらも余分なことだとスタッフに徹底しているのだろうか? 今日は女装らしい、しかも随分とクラッシックなドレス姿だ……あれだ、フランス革命漫画的なやつ。髪は縦ロールとまではいかないが、ゆるく巻いて後ろに大きなリボンをつけている。確かに可愛い。真っ白い肌に塗ったピンクのチークが鮮やかで、まるで西洋の人形だ。
ただ、惜しむらくは中身は男(多分)なんだよなーー。
ともだちにシェアしよう!