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第17話
「何しにきたの?」
宝石君は相変わらず猫のようにソファーに座っている。
勢いで宝石君のマンションに来てしまったが、特に策があるわけではない。ただもう一度会って彼の真意を問いたかった。このカラクリが俺の想像通りではない可能性だってまだ残っている。
「もう来ないでって言ったよね?」
「じゃあ、なんで俺をここに入れたんだよ」
「ずいぶん慌ててるから、どうしても言いたいことでも、あるんじゃないかと思って」
「思い通りになって満足か?」
「なんの話? 僕のお願い。みんな聞いてくれなかったじゃない」
余裕の笑みと、尊大な態度。やっぱり性善説の方ではないな。
「もう本当の話をしないか……いや俺はお前と争う気はないんだ。今日は頼みに来た。お前の影響力でこの騒ぎを止めてくれ」
神松より深く頭を下げた。土下座しろって言うんなら、いくらでもする。
「そーいうのやめてよねーー僕はちゃんとお願いしたよ。だけど駄目だった。だからもう無理だよーー」
「何か、手立てはあるはずだ……」
「何にも考えずにここにきたの? 思ったよりバカなんだね。僕がお願いするほど逆効果になる。だったらこのまま僕が消えてしまうのが1番なんじゃない?」
確かに、事を起こすほど人はこの事件を忘れず、事態の収束は先延ばしになってしまうかも知れない。だが忘れるまでにどれだけの犠牲が出るんだ? それを放っておけと言うのか?
「もう一度動画を撮ってくれ。本当にやめて欲しいのだと、こんなことが続いたら今後もうYouTubeを撮って配信することが不可能になると言ってもらえれば少しは響くかもしれない」
宝石君の顔色が変わる。
さっきまでの嘲笑が消え、綺麗な顔には侮蔑するような苛立ちが浮かんでいた。
「それは僕に何のメリットがあるの? もし僕が本当に復讐がしたいと思っているなら尚更だよね?」
……言い返せない。
宝石君は殺されかけてから、ずっと復讐を考えていたに違いない。何年もかけてSNSを駆使し、影響力をつけ、自分に味方する兵隊を増やし続けた。全てはこの時のためにずっと爪を研いで来たんだ。それに相応する対価なんかあるわけがない。
「……いいよ。じゃあ僕と寝てくれる? 一回してくれたら、一回動画を撮るよ。みんなにやめて欲しいってお願いしてあげる」
はあ? 何言ってんだ? 流石に聞き違いじゃないよな?
「……本気で言ってるのか?」
「本気、本気。僕今暇なんだよねーー仕事も全部止めちゃってるし、動画も撮ってないからやることないんだよね」
そういえば、さっきから人の姿を見かけない。エントランスに出てきたのも宝石君本人だった。誰も入れず、完全にオフにしていると言うことか。自分で言い出したこととはいえ、本当に効果はあるのだろうか? 宝石君の言う通り、最初の動画のように逆の効果が生まれる可能性もある。しかし、少しでも可能性があるなら試してみたい。
「お前、男性恐怖症なんだろ? なんで俺とやろうとするんだよ」
神松がここに来た時も距離を取っていたし、すぐに追い返した。これは確定のはずだ。
「黒木さんのこと、大好きだからでしょ?」
くっそう。何にも手の内、見せねーな。でも少しでも効果があるかもなら、おじさんの貞操くらい別に惜しくもなんともねーけどな。
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