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第25話
翌日、また池袋で落ち合い青柳君を連れて壱哉のマンションを訪ねた。念のため場所を特定されないように車内ではずっと目を塞いてもらった。
「ごめんなーー一応セキュリティのためなんだ」
「いいんです。当たり前です。今壱哉は大変な状態に置かれてるんだし。それより俺の無理な頼みを聞いていただいてありがとうございました。一言でも謝ることができればそれだけで嬉しいんです」
彼だって悪くない。いや確かに流されて事件に加担してしまった過失はあるだろうが、あの凶悪な事件の興奮の最中 に弱者である15歳の彼が壱哉を助けたり、共犯になることを拒否することがどれだけ恐怖で困難なことであったかは想像に難くない。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
「ごめん! 本当にごめんなさい!」
壱哉に会うなり、青柳君は床に頭を擦り付けて謝った。
「俺、怖くて、同じようにしないと俺も同じ目に合うんだって思ったら体が勝手に動いてた。言い訳だけど、許されることじゃないけど、ずっと謝りたかった!」
言いながら頭を幾度も床に打ち付け始めた。慌てて腕を掴み止めさせる。顔を上げた青柳君の顔は涙で濡れていた。
「……落ち着いて話そう、な」
肩を掴み椅子に座るように促す。壱哉は向かいの椅子に膝立ちで座り、さっきからずっと黙ったままだ。
「……もういい」
壱哉は、青白い顔のまま小さく言葉を発した。
「……今日はもう無理……帰って」
心が激しく揺れて引き裂かれそうなんだろう……自分のやろうとしていることを脅かす存在に。かつての友人だ。許せない気持ちと許してしまいそうな気持ちが軋轢を起こしているに違いない。まだまだ未来のある二人になんでこんな人生を狂わすような残酷なことが起こってしまったんだろうか。
「……わかった。会ってくれてありがとう」
涙声でそういうと青柳君は立ち上がった。
「駅まで送ってくるわーー」
青柳君と一緒に部屋を出ようとした時、彼がカバンから何かを出すのが見えた。
え……? ナイフ? 俺に向かってそれをむけている。
「ちょ……ちょっと、どうしたんだよ青柳君?」
なんで? 解らないが、震える両手でナイフを握ったまま無言で構えを崩さない。
本気だ!!
後ずさるが、近すぎて逃げられない。彼の体が前に出てきて刺される! そう思った瞬間。目の前でずるりと壱哉の体が落ちた。
嘘だろ!!!!
「……はは! 何庇ってんだよ! 次にお前も刺すつもりだったから丁度いいけどさ!」
青柳君を思い切り突き飛ばしてナイフを落とした瞬間にそれを奪い取る。どこを刺された?
床に落ちた壱哉の白いシャツが真っ赤に染まっていく……。
早く! 早く! 救急車を呼ばなければ! 震える手で携帯を探した。
「死ねばいい! なんで生き返ったんだよ! この亡霊! お前のせいで僕のことを孫より可愛いって言ってくれたおばあちゃんから人殺しって罵られたよ! なんでだよ! 進学も一流企業も諦めて償ったじゃないか! なんで今更、俺たちの前に現れたんだよ!!」
背中から聞こえる理不尽すぎる彼の怒号。そこから先は興奮しすぎて詳細を覚えていない……。
青柳君をぶん殴った後、壱哉の血で滑る手を懸命に動かして救急車を呼んだ。
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