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第1話

「俺ねーさっちゃんが男の人と付き合ってるって聞いた時『は!』っと気づいたんだよねー?『そうだ!男同士でもいいんだ!』って!」  なに人差し指立てて、探偵気取りで名案思いついた! みたいに言ってんだ!    さっちゃんというのは深森(ふかもり) (さとし)。  企画開発部の部長でこのお子ちゃま社長(山田(やまだ) 竜聖(りゅうせい))と自分(八魂(はちかい) (りん))の同期で同窓、この株式会社 インフォーマルの創業メンバーだ。  何をとち狂ったか、現在6歳も年下の男と付き合っている。しかもラブラブ。忌々しい。塩を撒きたい。二人まとめて仲良く溶けてしまうがいい。 「今時何を言ってるんです。会社としてのコンプライアンスに関わります。滅多なこと口にしないでくださいよ」  自分の見解はどうあれ今のご時世、会社としてはLGBTに対する偏見や、ハラスメントは絶対に許されない。 「そうだよねーーだからさーー結婚しよ」 「はあ?」 「だって結婚って1番好きな人とするものでしょ? なんで今まで気づかなかったんだろー新婚旅行どこにする? ハワイ?」  沸いている。出会った時からずっとそう思っていたけれど! 今もずっとそう思い続けているけれど!! 毎日、毎時間、毎分の頻度で思っているけれど…!!! 過去イチ頭が沸いている!!! 「1番大事なことをお忘れじゃないですか? 結婚には両者の同意が必要です。ですので丁重にお断りします」 「ひどーーーいーー!なんでーーー???」  なんでじゃねーよ! 当たり前だろーが! 「僕のどこがダメなのーーー?」 「男だってところがです!」  ま、何もかもだがな。だが優しいから言わないでおく。 「ひどいーーーー超差別! コンプライアンスはーー?」 「プライベートのコンプライアンスは己に決定権がありますので」 * * * 「……って言われたよーーー!! ひどくない?」  お土産にとケーキを山のように買って急に訪ねてきた山田は3個目のモンブランをむしゃむしゃ食べながら報告してくる。 「あーーーー」  すっげー責任を感じる。俺が山田に余計な知恵をつけてしまったせいでの、この事態だな……。八魂が烈火の如く怒っているのが脳裏に浮かんで恐怖しかない……明日会社行くの怖すぎる。 「社長、専務のこと好きなんですか?すっげーチャレンジャーですね」  ちょうど遊びに来ていた桐生(きりゅう)が答えた。 「なんで? 超可愛くない?」  可愛い? 可愛いという形容詞は違うんじゃないかなーーー? かっこいいなら……いや、怖いがいちばんしっくり来るんだけど。  大学当時、俺と山田で毎日ようにアプリを作って遊んでいるところに目をつけて起業の段取りを全てつけて、ここまでの会社にしたのが八魂だ。実務的な部分は全て担ってくれている。正直オタクなだけで生活力皆無の俺と山田は全く頭が上がらない。 「まあ、俺には全く理解できませんが、好みの問題ですからね」  桐生の奴。しれっと八魂のことデスったな。 「ところで社長? 結婚ってナニするかわかってます?」 「なにって? セックス?」  山田の口からそんな言葉がーー!(母の気持ち)   「あ、それは解ってるんですね? でも男同士は女性とはちょっと違いますよ」 「そうだよねー? 教えてくれる?」 「やめろーーこれ以上余計な知恵をつけるな!」 「余計じゃないですよ。万一専務を落せた時、知識がないとケガさせちゃいますから」 「いや! 万一とかないから!」 「ひどーーーーい!さっちゃん!! 僕は応援したのにーー!!」 「い、いやそういう意味じゃ……」 「え、応援してくれたんですか? じゃあとっておきのを教えます」 「ちょ、ちょっと待て!」  その知識=(イコール)俺に今までしたことってことだろ? 恥ずかしすぎるわ! 「深森さんはお風呂でも入ってきて、先に寝て下さいね」  ニヤリと笑う桐生とワクワクの顔をしている山田が、あっちへ行けとサインを出してくる。 「……ほんとに教える(教わる)のか?」  二人して深く頷いた。  怖い。絶対に殺される……八魂に!

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