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【白銀の月を獲りに行く。番外編】ツクヨミヒメ
「ねーーいつになったらイエスの返事くれるのーー?」
「いつになってもイエスとはお返事しません」
「凛ちゃん。ほんと、つめたーーーーい!」
夜空に浮かぶ大きな白い満月を背にした凛ちゃんは淡い光を纏ってまるで月詠姫のようだ。つれないーーでもそういうところも好き。そういうところが大好き! すっごい可愛い! 綺麗! 美人! カッコいい! 何時間でも見ていられる!
会社に隣接しているバーはマットな黒を基調とした落ち着いた店内で、殆ど柱のない大きな窓から外の景色が一望出来る。ピアノの生演奏も心地いいし。ご飯もお酒も美味しい。残業してお腹空いても、すぐ寄れるし、やっぱオフィスここにして良かった。何より何かと理由をつけて凛ちゃんと一緒にご飯食べれるのが最高!
会社でも、ほとんど一緒にいるからいいんだけど、プライベートでもずっと一緒にいたい。幾度もプロポーズして幾度も断られているけど、全然構わない。凛ちゃんにはそれだけの価値がある。
「ねーーどーーしたら『うん』って言ってくれるのーー?」
「どうしますかねーー? 取り敢えず上場でもしてもらいましょうか」
「え? それでいいの?」
「何言ってんです? それで『好き』と言っていい権利をあげますよって位です」
挑発するように凛ちゃんの綺麗な顔が目の前にスレスレに近づく。あと数センチでキスできそうな距離。キスしたい!!
前に出ようとすると、ゴン! と頭突きをされた。
「いたーーい!」
「相応の男になりなさい」
「はーーい」
ちぇーーどさくさに紛れてキス出来るかもって思ったのに!
スッゲー周りの視線を感じるけど全然構わない。そんなことより凛ちゃんとキスしたかったーー!!
凛ちゃんはスーパーマンだ!
学生時代に何もできない自分をスカウトしてくれて、あっという間に会社を立ち上げてしまった。計算も出来るし、電話にも出てくれるし、お客の相手もしてくれるし、社員への気遣いも完璧。なのに奥ゆかしいから社長にはならなかった。
凛ちゃんのおかげで社長にしてもらって、自由に好きな仕事が出来てる。
今のままでも、十分幸せなんだけどーー最近、ほっといたら凛ちゃんが恋人を作ったりとか、結婚したりとかするかもって気づいちゃったんだよね〜〜。
ぜーーーーーーったいイヤ!!!!
ぜーーーーーーったいムリ!!!!
だから結婚するしかない!
養子にするのがいいのかな? 海外に行って結婚するのがいいのかな?
誰かに取られる前に法的手段に出る! 法律でぐるぐるに縛り付ける!!
「なんて顔してるんですか?」
なんて顔って? どんな顔?
「リスみたいに頬袋出来てますよ」
凛ちゃんはすごく呆れた顔をして、細くて長い白い指で俺の頬をつついた。
あーームリ!
プツっと理性の切れる音がして思わず凛ちゃんの手を掴んで指をぱくっと齧ってしまった。
瞬間。左頬に衝撃が走り、思い切り平手で叩かれた。
「帰ります!」
ガタンと大きな音を出して立ち上がるとスッゲー怒って先に帰ってしまった。
あーーまた怒らせちゃった。
だって大好きな人に、あんなことされたら指くらい舐めちゃうよね〜あ、下半身もムズムズしてきた。ちぇーー辛いなーー抱きしめたりキスしたりしたい!!
取り敢えず笑ってくれればいいのに……どんな顔も好きだけど笑ったらすっごい綺麗だろうなーー?
それが俺に向けられたものだったら最高! 死んでもいい! 嘘! 凛ちゃんとずっと一緒に居たいから死にたくはない!
もうちょっと飲んでから帰ろーーっと。
追加でお気に入りの白ワインとおまかせで合いそうなツマミをチョイスしてもらった。
窓から見える大きな白い月を一人で眺める。あれを絶対に手に入れる。
こんなに好きなんだから自分の全てを掛けて狙う。絶対に諦めない。
上場かーー取り敢えずそれでかぐや様は喜んでくれるかな?
笑ってくれるだけでもいいなーー。それだけでもやる価値はある。あんまり会社大きくしちゃうと好きな人だけじゃなくなっちゃいそうで嫌なんだけど、凛ちゃんがそうしたいならそうしてもいい『よくがんばりましたね!』って笑って抱きしめてくれたらもっといい!
算段するかなーーーー。
もわもわと会社を大きくするイメージが涌いてきた。
ああ、こんなふうに賢く俺を使う凛ちゃんも好き!
もっともっと転がされたい。
欲しいなーー綺麗な綺麗な白銀の月。
欲しくて欲しくて堪らない。絶対獲る。
絶対獲れる!
ドビュッシーの【月の光】が流れてきた。
窓から見える大きな満月を見ながらお酒を飲み美味しいものを食べる。欲しいものは後一つだけ。
凛ちゃんがいない人生は自分の人生じゃない。
だから絶対絶対獲りに行く。
月のように美しくつれない恋人(予定)が優しく微笑む姿を想像しながらお月見をする。
想うだけでこんなに嬉しくて、楽しい。サイコーー。
大丈夫。凛ちゃんも絶対楽しい人生になるよ。
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