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第10話

「プロボースされちゃったよーー」  もう10回以上は空港での出来事を聞かされている。八魂が言ったのはどう考えても仕事のことだと思うけど山田がすっげーー嬉しそうだから水は刺さないでおくけどさ。 「だって惚れ込んだって言ってくれたんだよーー」  俺たち二人の……ってとこは消去されてんだな。それで山田が幸せならいいんだけど……でも八魂がそんな気持ちで実務を担ってくれていたなんて知らなかった。ありがたいな。 「それにさーー思い出したんだよ! もう大学で熱烈にプロポーズされてたんだよねーーあの時の凛ちゃん超かっこよかった!!」  学生時代突然、八魂からスカウトされた話だよな。それも俺こみの話だったよな。まあこれもよけいなことは言わないけど。 「しかもねーー」  山田は嬉しそうに自分のタブレットをリュックからごそごそ出すと、こっちに向けた。山田と八魂が抱き合って号泣している動画がSNSで配信されている!? 「誰かが撮っててくれたんだねーー宝物だよーー」 【空港で別れを惜しんで抱きあうゲイカップル発見♡】 【外人さんかなーー? 大胆ーー】 【再会の抱擁じゃない?】  リツートやコメントが山のようについている。  ……寒い。冬でも無いのに寒過ぎて足もとから感じる冷たい寒気にブルブルする。 「や、山田これ絶対に八魂に見せちゃダメだからな」 「なんでーー? 見せたいーー喜ぶと思うけどなーー」 「タブレット瓦割りされるぞ」  八魂は空手有段者だ。こんなもの見せたら、今度こそ社長室に血の雨が降る。 「……そろそろ帰って下さい」  桐生がドン! っとコーヒーを山田の前に置いた。ソーサーに中身がだいぶ溢れている。 「ここさっちゃんちーー! 尚ちゃん横暴!!」 「社長ちょっとだけ俺の話を聞いてもらっていいですか?」 「なに?」  やばい。とうとう切れたかも?  桐生は真顔で山田の正面に座って話しかけた。 「ちょ…ちょっと桐生」 「専務と両思いになって、ついに一緒に暮らせるようになりました」  何の話??? でもその例え話で山田はスッゲー上機嫌になってる。 「やっと二人きり。抱きしめてキスをしようとします」  うんうん。と山田は興奮気味だ。 「でも、ふと横を見るとソファーに座っている俺がいるんです」 「ダメーーじゃまーーーー!」  山田は、は!っとした顔になると勢いよく立ち上がった。 「ごめんねーーいますぐ帰る!」  言うとバタバタと帰っていった。ホント慌ただしい。すっかり元気になったみたいでよかったけど。 「お前子どもの扱いうまいな……」 「子どもはとっくに帰って寝る時間です」  桐生は山田の飲まなかったコーヒーを涼しい顔で口にした。 「悪かったなここのところ山田のこと優先して」 「怒ってませんよ。仲良くてちょっと妬けますけど」 「でもなーーあの二人どうなると思う?」 「それは俺にもわからないですねーー」 「深森さん。こっちはそろそろ大人の時間ですよ」  言うと桐生は俺を抱きしめてキスをした。  * * *  仕事に支障をきたすということで、対外的な場面以外では八魂の山田への要望は解除されたらしい。またピンクのパーカーとスエットを着て猫背で社内をウロウロしている。女子社員達は一時期社内をざわざわさせたハイスペ社長が消えてしまって残念そうだ。  ……とはいえ山田もちょっとは反省したのか、前ほどふらふらどこかに行ったりすることは無くなったみたいだ。いつ来客が来てもいいように髭も剃ってるし。  二人の関係がどうなるのかはわからないけど、とりあえず収まったみたいだから良かったのかな?  でも山田は今まで一度も自分の希望を通さなかったことがないんだよなーー。  あ、また寒気がしてブルっと震えがきた。  怖すぎる。あんまり考えないようにしよう。                    Fin.

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