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第8話 やきもち(6)
今度はジャンプリーダーの権限を渡してくれなかったので、俺はなすがまま一緒にパラシュートで落ちていった。どこの激戦区に連れてかれるんだろう……と緊張しつつ覚悟したが、何故かマップの端っこにぐんぐん向かっていく。
「あれ? ちょっと」
操作ミスか? 着地したのは、ぽつんと一軒の家のみがある地の果てだった。なーんもない。ところどころ草が生えてる。すぐ近くにレーザーで出来たような光の壁があって、この外に出たら死ぬんだろうなと直感でわかるような激しい赤だった。
タケルくんが『ここで待ってろ』と俺を残し、一人で家の中に入って行った。犬のように忠実に荒野で待機する俺。家から出てきた彼のあとをついていった。二人で無言で走り続けるうち次の安地が決定したが、予想されたことながらとんでもなく外れていた。人力でたどり着くのはとても無理。
「バイクだ」
うかつなユーザーへの救済措置のようにバイクが道の脇に停まっていた。体はまる出しになるしちょっとした衝撃で放り出されるのでいらぬダメージを受けがちだが、セダンと変わらぬスピードで移動が可能になる。
『お前が運転しろ』
「あ、ハイ」
素直に運転席にまたがると同時にグレネード接近のマークが出て、バイクが大爆発を起こし俺はダウン状態になった。
「え?! ナニナニ?!」
状況がまったくつかめない。地面を這い回る俺の前にタケルくんが立ちふさがる。
『味方にはダメージ入れらんねえけど、車両には攻撃出来っから、それで味方をダウンさせられる』
「し、知らなかった」
『個人情報ペチャクチャしゃべりやがって……』
「そこまでじゃないでしょ。世間話の域を出てないですよ」
『相手が女子でテンション上がったかしんねえけど、妙におしゃべりだったよな』
「そんなことないです」
『声がカッコイーとか言われちゃってさ。チヤホヤされていい気になったんじゃねえの?』
「そんなことないですって!」
『お前、"軽トラの王子様"に名前変えろ』
「何でだよ?!」
僻地すぎて他に誰もいない、なんて油断していたのがまずかった。二人とも言い争いに夢中で、迫りくる敵に気付いてなかったのだ。俺が時間切れでキル状態になったのとほぼ同じタイミングでbotがタケルくんにマシンガンの銃弾をあびせかけ、アーマーを強化しておらず武器も持っていなかったタケルくんはあえなくキルされた。順位は大惨事の四十三位。
『お前のせいでキルレ下がったじゃねーかバーーーーカ!!!!』
マイクが音割れを起こすほどの音量で怒鳴り、タケルくんはチームから外れた。アプリそのものから出たようで、アイコンがグレーになっている。
「……何なんだ……」
俺はがっくりと畳に手をついた。何故あんなに機嫌が急降下したのか。チーム内でボイスチャットするのは連携を取るために望ましいし、誰だってやっている。浮かれてしゃべり過ぎたという意識もない。いつもの俺だったと思うんだが違うのか?
時計を見ると0時を過ぎたところだ。もう寝るか。布団に入り、天井の明かりを消して目を閉じた。
窓の外から涼しい風が吹き込み、カエルの鳴き声が聞こえてくる。日中どんなに暑くても夜はしっかり涼しいところがド田舎のいいところだ。都会は夜中になっても昼間と同じ気温らしいが、地面を隙間なくアスファルトで覆ってるからだろう。道路はしょうがないとして、それ以外が舗装されてる必要はないと思うが。雑草生えたらたしかにめんどくさいけど。
とりとめもなく考えながら眠りに落ちるのを待っていると、俺はあることに気付いてはっと目を開けた。
――もしかしてアレって、やきもちじゃねえか?
「いやいやそんな……」
寝返りをうって己の考えを否定する。そんなことあるわけねえじゃん。あの人が? 俺に? ないでしょそれは。ムカつくことはあっても、やきもちなんて焼かねえはずだ。
何にしてもどうかして謝らないと。あれは俺の"謝り待ち"の体勢に入ったとみた。まずは言葉遣いをメッチャ丁寧にしてメッセージでご機嫌をうかがっていこう。
思えば「一人っ子で気ままに過ごしてきた」かつ「人とそこまで深く関わった経験がない」ので、なかなかハードルが高かったが、彼に嫌われてはいないという根拠のない自信だけは不思議にあったので、頑張って根性を出していく所存だった。
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