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第8話 やきもち(5)

『よろしくお願いしまーす』 『お願いしまーす』  ん? と思った。スクアドに入ると、チーム内音声で女子の声が流れてきたからだ。 「よろしくお願いします」 『あんま上手じゃないんで、迷惑かけたらスミマセーン』  正真正銘の女子二人だった。アバターも名前も全部女子。このゲームで、初めて本当の意味で異性と遭遇した。  スクアドに入った瞬間からタケルくんはいつものようにマイクをオフにしてしまったが、イヤホンは入っているのでこの会話は聞こえているはずだ。 『ジャンプリーダーの人、野良かなあ』 「いや、俺のフレンドです」 『そうなんだー』  聞けば聞くほど子供感。何となく農業クラブの部長やってたとき、下級生女子に「ハイこれ読んでハイこれ読んで」と一枚ずつプリント配ったときのことを思い出してしまった。こんな夜中までオンラインゲームして大丈夫か? 親にスマホ取り上げられないか?  試合に入る直前にタケルくんがジャンプリーダーを俺に押しつけてきた。まあ、いいですけど……。マップはよくわからなくても、どのあたりが比較的安全かは航路と航路からの距離で判断出来る。四人にある程度物資が行き渡る程度に建物が集合しているエリアを選んだ。降下しつつ解散し、それぞれで装備を整えたが悪くはない。すでに人があさったのかと思うほど何もない場所に着地するときがあるので、こればかりは運としか言いようがない。 『トマトさんって歳いくつですか?』 「二十一」 『オトナー』 『私たち高校二年なんです』 「あ、そうなんだ」 『大学生ですか?』 「仕事してる」  女子は口数が多いな。男だったら報連相しか会話ねえけど、知らない人間と他愛ない話をするのも目的じゃあるんだろう。同じチームになったってことは同じくらいのレベルなんだろうし、あんまり世話を焼く必要はないか。 『やっぱクラスの男子と違うよねー。落ち着いてるし』 『声がカッコいいって言われません?』 「コエガカッコイイ」  言われたことのない褒め言葉に思考が停止し、おうむ返ししてしまった。 『それ思った! 話し方も優しいよね』 『モテそうー』 「まさか」  何なんだ? 俺、このあと壺とか三十万ぐらいする絵とか買わされんのか? 勝手の違う相手に困惑しつつも戦闘準備を終え、いったん集合した。 「弾足りてる? アーマー持ってる?」 『ハイ大丈夫でーす』 『アイコさんってトマトさんの彼女ですか?』 「違うよ」  そう答えた瞬間、ズガン!! という大音量が轟いた。 「え、今の敵?! どっから撃たれた?!」 『……隣から』 『アイコさんがトマトさんに発砲してました』  何で? 誤射か? 雑談してねえで早く移動しろってことかな。 「安地内だけどもう移動しましょう。そろそろ敵も動くだろうし、物資も余裕持って確保していきたいし」  俺は次の目的地である隣の大きな市街地にピンを立て、皆に移動を促した。  女子たちがいきなり静かになったのが不可解だったが、戦闘に集中しているからだろうと気にもしなかった。その後はタケルくんの力を借りつつ比較的順調に勝ち残っていき、無事一位を獲った。 「よかった、うまいこといって」 『よかったですねー』 『どうする? もう一回試合し』  ここで女子たちのアバターが忽然と姿を消した。自分からチームを外れていったんじゃないだろう、何か言いかけてたし。俺は何にもしていない。ということは、タケルくんが二人をキックしたのだ。  そのまま無言でデュオに切り替え、試合に入るタケルくん。何か……嫌な予感がしてきたぞ。これは思いっきり叱られる予感。

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