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第17話

AIちゃんがドアの方をジッと見てるから俺も気になり見ると、息を切らして慌ててやって来たコウくんが立っていた。 「…はる、か?」 コウくんは呆然と俺を見つめるから俺もコウくんを見る。 何分…もしかしたら何秒だったかもしれないが、静寂を長く感じていたらいきなりコウくんが我に返りAIちゃんを見た。 「…藍?」 「え?…えぇそうよ」 コウくんは今気付いたように言い部屋に入ってきた。 そしてAIちゃんの前に立つ。 無視したわけじゃないと分かるが、何だか寂しい気持ちになった。 「…藍、ここは僕の部屋だ…出ていってくれ」 「ちょっと!せっかく連れてきたのに!」 「……藍」 「…うっ、分かったわよ」 AIちゃんはコウくんに言われて悔しそうにしながら部屋を出ていった。 あのAIちゃんに反論させないなんて、さすがコウくんだ。 コウくんは俺の方に振り返り不思議そうに見ている。 「………遥?」 「…っあ」 俺はいつの間にか無意識にコウくんの服の袖を掴んで引き止めていた。 コウくんの服が伸びちゃうと慌てて手を離すと、コウくんが俺の手を握りそのまま手の甲に口付けた。 王子様のようにキラキラしているコウくんに恥ずかしさで固まっていると抱きしめられた。 コウくんに会う目的も忘れてどうしようかとプチパニックになっていると耳元で囁くコウくんの声が聞こえた。 「……ごめん、ごめんね…もう…遥に触れたりしないから、だから…嫌いにならないで…今だけ、こうさせて…」 コウくんは壊れ物を扱うように優しく抱きしめていた。 そして今のこの行動で嫌われるんじゃないかと怯えて震えていた。 コウくんは強いと勝手に自分とは違うと思い込んでいた。 …でも、実際は凄く弱いのかもしれない。 心が脆く…少し触れただけで壊れてしまいそうになる。 俺も繊細なガラスに触れるようにコウくんの背中に腕を回すと、ビクッと触れた。 そのまま優しく背中を撫でると震えが落ち着いてきた。 「コウくんを嫌いになるわけないよ、だってどんなコウくんでも俺の憧れだから……俺の方こそ勝手にコウくんをある人と重ねちゃって…ごめんね」 「………重ね、た?」 顔を上げたコウくんは不機嫌な顔になり、慌てて弁解する。 「やっ、えっと…俺の友達が好きな人が出来たら俺よりその人を取っていなくなって……コウくんもいなくなったらやだなって…思って、ごめんなさい」 上手く言えず自分でも何言ってるのか分からず、最後は謝った。 やっぱり理由はどうであれ、他人と重ねられたらいい気はしないよね。 コウくんもちょっと複雑な顔をしている。 「…もしも俺に好きな人が出来ても、一番は遥だよ」 「…え?」 別れてから1日も経ってないのにコウくんの微笑みが久々に感じて嬉しかった。 でも、好きな人がいるのに俺が一番だと好きな人が可哀想になっちゃうよ。 「一番じゃなくても、友達として変わらず遊んでくれたら満足だよ!」 「…?遥、意味分かってる?」 コウくんはちょっと困った顔をした。 本当の意味は何なのか分からず首を傾げると コウくんは俺の頬を手で優しく包んだ。 そして俺に優しげな声で言った。 「……遥は鈍感なままでいいよ」 「え?どういう事?」 ますます分からず混乱しているとコウくんは笑うだけだった。 …うーん、自分で考えろって事? 俺が友達の中で一番だけど恋人の方が上って事? ……自分で言ったのに恥ずかしくなった。 コウくんはかっこいいし優しいから俺よりいい友達がいる筈だから俺が一番なんて鵜呑みにしちゃダメだ! これはお世辞だ、うんうん。 赤くなった顔を隠すように両手を顔の前で覆うとコウくんにクスクスと笑われた。 うっ、余計恥ずかしい。 「……遥、僕は遥の傍にいていいの?」 「当たり前だよ、むしろ俺がお願いしたいくらい…」 両手を少しずらしてコウくんを見ると、今まで見た事がないほどのとろける甘い笑みを向けていてボーッと魅入っていた。 だから気付かなかった。 俺の両手を掴み下ろしてコウくんの顔が近付いてる事に… 「コウく…んぅ!?」 「…ちゅっ」 唇に柔らかくていい匂いの何かが触れた。 すぐに離れていったそれをしばらく見つめた。 「…えっ、なっ!?コウくんきっきききき!!!!」 「遥落ち着いて、今のは友達の挨拶みたいなものだよ」 「……えっ!?そうなの?知らなかった…」 「………遥、今後僕以外の人間の言う事を信じないように」 コウくんが真顔で言うからよく分からず頷いた。 コウくんがホットココアを用意してくれて二人で並んでソファーに座った。 高そうなソファーだ、俺の家とは違ってふかふかだ。 ソファーに感動してココアが美味しくて忘れそうになったが思い出してコウくんを見るとコウくんは俺を見てずっとニコニコしていた。 仲直りしたのがそんなに嬉しかったのかな?俺も嬉しかったから分かる。 ココアを一口飲んで落ち着く。 「コウくん、その…棚にあった写真ってもしかして…」 「……見たの?」 コウくんから表情がなくなったのが怖くてずっと「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝ると頭を撫でられた。 「…怒ってないよ、あれは…僕じゃない」 「そ、そうなんだ…じゃああの…写真集の薬師寺煌くんとは…」 ちょっと疑ってた、もしかしてコウくんは薬師寺煌くんなんじゃないかって… コウくんは俺を見てニコッと笑った。 考えを見せないように見せた仮面の笑顔だと何故か感じた。 「…薬師寺煌は個人的に嫌いなんだ、遥の前に会わせたくない…汚い奴だよ」 コウくんから憎んでるのが分かる。 コウくんが薬師寺くんじゃなくても知り合いっぽい言い方だな。 深くまで聞いていいのか悩んでいたらコウくんが先に口を開いた。 「実は、僕と薬師寺煌は従兄弟なんだ」 「えぇ!?」 「だから藍とも従兄妹で訳あって一緒に暮らしてるんだ」 なんかいきなりとんでも展開を聞かされて間抜けに口を開けっ放しにすると、またコウくんは甘い笑みを向けた。 「……安心した?」 「う、ん…」 AIちゃんとの関係は誤解だったと知り素直に頷くとコウくんに抱きしめられた。 コウくんは全部飲んだから大丈夫だけど不意打ちはびっくりするよ! コウくんは「従兄弟と同じ名前とか止めてほしいよねー」と嬉しそうに愚痴を言っていた。 まだ隠してる気がするが、この空気を壊したくなくて黙ってコウくんの服をギュッと握った。

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