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第16話(煌視点)
僕は自分が嫌いだった。
子供の頃から完璧だったわけじゃない……誰も知らない努力をしていた。
出来るまで時間が掛かり、父親とも何度も険悪になった。
何も出来なかった僕には唯一褒められていたものがあった。
……それが、僕の顔。
中身も何も知らない他人が見た目だけで判断した。
顔がいいからきっといい子なのだろう…何でも出来るのだろう。
………何も知らないくせに…
いつしか僕は自分の顔が嫌いになった。
……何も知らないくせに僕を褒める他人の気持ち悪い顔を脳内で塗り潰した。
僕は…顔じゃなく内面を見てくれる相手を探していた。
……僕は仕事命で家族を放置する父親が嫌いで、父親に反抗するために芸能界に入った。
昔の自分を見てるみたいらしくて父親も僕の顔が嫌いで稀に家に帰る時も僕の顔は一度も見ない。
だから反抗と共に父親が嫌がる事をした。
有名人になり父親に嫌でも僕の顔を見てもらう。
……構ってほしいとか、そんな可愛い理由じゃない…これは嫌がらせに近い。
僕も自分の顔を嫌でも見なければいけないが、父親ほど狂ってはいない。
それでも、ストレスが溜まると自分の雑誌の顔をぐちゃぐちゃにしたくなる。
……僕も相当狂ってるだろうな。
遥だけだったんだ、僕を普通の人間として接してくれたのは…
遥……君だけなんだ…
だから…….いかないで…僕を嫌いにならないで…
遥を探すために電車に乗る。
仕事用の携帯の存在を忘れていて、電車を降りてすぐにポケットを探り遥の携帯に電話を掛ける。
しかしいくら電話しても遥は出ない。
…もしかしたらまた、誰かが僕と遥の仲を引き裂こうとしてる?
ずっと電話しながら遥がいないか探す。
……遥の知らない事がこんなにショックだなんて…
僕は遥の事…何も知らない。
学校と年齢と電話番号だけ…
遥の手がかりは学校…か。
携帯で遥が通う和泉学校を検索すると、茶色いブレザーの制服が見えた。
…茶色いブレザーか、遥が着てるところ見てみたいな。
そう思いながら歩いてると茶色いブレザーが見えた。
日曜日に制服って、部活か…
……遥の事聞いてみようかな。
顔は分からないけど多分少年に声を掛ける。
「……ねぇ君、ちょっといい?」
「え?…はい!」
電話が鳴る…
遥からかと思って画面を見ると、家の使用人からだった。
面倒だったし、もし通話中に遥から電話が来たら困るから無視しようとしたら、一度電話が切れ…また鳴った。
はぁ、これじゃあ遥の電話の妨害になる。
さっさと用件済ませて切るか…あ、でもあの人なら遥を探すの得意そうだから協力してもらおうかな…盗聴盗撮が趣味だからな。
床で寝転がり動かない生ゴミはほっとくかな。
…僕、暴力は嫌いなんだけど…僕を欲の目で見て気持ち悪かっただけじゃなく、遥の話をしたら延々と遥の悪口を言うからちょっと指の骨折って精神的に追い詰めたら奇声上げて倒れたんだっけ…
まぁ、もう遥の悪口を言えない口にしたから大丈夫だよね……
電話に出ると、使用人の声がした。
『煌様、お忙しい中申し訳ございません』
「……それはいい、用件だけ言え」
『はい、藍様が男性を家に連れてきまして…それだけでしたら煌様ではなく旦那様にお伝えしますが、その二人が煌様のお部屋に向かわれたので』
勿体ぶる使用人の言葉に苛々して携帯を投げつけようと思っていたら、最後の言葉に自然と足が動いた。
……僕の部屋に誰かが入った?
何の用で?
僕の部屋は僕を保つための殻だ…誰も入れさせない。
…もし、唯一入る事を許す相手はただ一人…
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