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第15話

電話に出た声は聞き覚えがあり、一気に体温が低くなった気がした。 まだ……そっちの覚悟はしていない。 震えそうな声をなんとか絞り出した。 「……AI…ちゃん」 『あら、私の声だけで誰か分かるなんて相当のファンね』 そりゃあCD全部買ってコンサートに行くほどにはファンだよ……今は複雑だけどね。 コウくんの携帯を持ってるって事は一緒にいるのかな。 ちょっと考えれば分かるのに……考えてなかった。 また日を改めようと口を開いたらその前に声が聞こえた…なんか今日はよく遮られるな。 『ねぇ、貴方もしかしてさっきの冴えないくん?』 冴えないくんってもしかしなくても俺だよね。 電話ごしだから見えないのは知ってるが苦笑いする。 分かってたけど憧れのAIちゃんに言われるとダメージが凄い。 「…は、はい」 『今どこ?』 俺が肯定するとAIちゃんは明るい口調から少し低くなった。 …ど、どうしよう…俺なにかしたのかな。 俺は駅前にいる事を教えた。 すぐにコウくんの場所に駆け付けられるようにいた。 AIちゃんは『分かった、動かないでよ』と言って電話が切られた。 こっ、これは修羅場とかそういうのじゃないよね!? いきなりの展開についていけず駅前でうろうろ落ち着きなかった。 結果、何人かに不審な人物として見られた。 しばらく待っていたら肩を叩かれた。 「…貴方が、はるか?」 「えっ…あ、AIちゃん?」 振り返るとさっき別れた時と違い、サングラスにマスクに帽子とベタな芸能人の変装をしているAIちゃんがいた。 ちょっと半信半疑だったけどAIちゃんが頷いたから安心した。 …でも、なんで俺の名前知ってるんだろう…コウくんに聞いたのかな? ………いきなり下の名前で言うからドキドキした…女の子に下の名前言われたのは初めてだったから… あれ…? 「…えっと、コウくんは?」 「………その事で貴方に話があるの」 そう言うとAIちゃんは俺に抱きついた。 ビックリしすぎて一瞬息が止まった。 AIちゃんのいい匂いにふわふわ気分になってるとすぐに離れてしまった。 まさか、俺が変態だと思われた!? 「ちっ、違うよ!べ…別に俺はそんな変な気なんて…」 「…何言ってるの?」 AIちゃんの冷たい瞳が突き刺さって痛い… そしてAIちゃんの手にはさっきはなかったのに、なにかが握られていた。 あれって… 「あれ…なんでAIちゃんが俺のスマホ…」 「……邪魔されたくないから」、 意味深に言うAIちゃんに俺は首を傾げた。 抱きついた時にショルダーバックに入ってたスマホを探して取ったのか…なんで? 動揺してて気付かなかった俺も情けないけどね。 AIちゃんは悪い事にスマホを使わないと信じて後で返してもらえばいいかと思った。 「着いてきて、にい……コウについて教えてあげる…貴方しか止められそうにないから」 「……え、それってどういう」 俺が最後まで言う前にAIちゃんに手を引っ張られて何処かに連れてかれた。 何処に行くのか分からないが、きっとコウくんになにかあったんだという事は分かった。 ……コウくん…どうしたんだろう。 駅前に停めてあった黒い車にAIちゃんが乗った。 ……これ、高級車じゃ… 「早くしなさいよ」 「あっ、はい!」 AIちゃんがイライラしていて、思わず固まった。 ……AIちゃんはテレビとのギャップが凄い…それだけでファンを辞めるわけじゃないけど… 人は見かけで判断しちゃいけないと改めて思った。 高級車に乗り、隅っこで縮まっているとAIちゃんに鼻で笑われた。 うぅ…AIちゃんが女王様に見える。 「貴方って犬みたいね、ポチって呼ぼうかしら」 見えるんじゃなくて本当に女王様だった。 しばらくAIちゃんに罵倒されながらさらに縮こまると、車が停まった。 AIちゃんが降りるから俺も車から降りて目を見開いた。 目の前には西洋風のお城があった。 ……凄い家?え、AIちゃんの家!? 「趣味悪いわよね、お母様の趣味なの」 そんな事を言われたらどうコメントしたらいいか困る。 AIちゃんは俺の手を引き中に入る。 AIちゃんの家とコウくんって何の関係が……ハッ!もしかして同棲してるとか!? 中もいろいろ凄かった。 「まずは私の部屋に行きましょ」 「えぇ!?お、女の子の部屋は…さすがに…」 「何期待してるの?変態ポチ、私か弱いけど貴方には勝てると思うけど?」 俺、ポチ呼びなんだ…… いや、そんな事より誤解を解かなきゃ!! 「ちっ、違うよ!俺は…」 「……」 AIちゃんは俺の事を完全無視していた。 ひ…酷い… AIちゃんはずっと俺のスマホを見ていた。 「……私とした事が、仕事用携帯を忘れてたなんて」 ずっと俺のスマホが震えていた。 誰かからの着信だから返してもらおうとしたが、すぐにポケットに入れられた。 そして俺を見てニコッと笑った。 ……嫌な予感しかしない。 「さて、もう時間がありませんわ…さっさと行きますわよ」 「えっ…ちょっ…まっ!!」 俺が停止を言う前にAIちゃんに襟を掴まれて引きずるように連れてかれた。 地味に首が苦しかった。 そして俺は初めて女の子の部屋に… 「……ってアレ?」 後ろ向きだから怖くなりながら入った部屋は俺の想像してた女の子の部屋じゃなかった。 …もうちょっとぬいぐるみとか小物が沢山のピンク色の部屋かと思った……童貞の妄想でごめんなさい。 全体的に黒い部屋だった。 壁も黒くベッドも黒い……それに物が必要最低限の物しかない。 ……AIちゃんのイメージが… 「…勘違いしないでよ、私の部屋じゃないから」 考えてる事が筒抜けだったのか、AIちゃんから白い目で見られた。 ……じゃあ誰の部屋? ちょっと軽く見てみると、棚に写真立てがポツンと置いてあった。 何気なく見てみる。 「……あれ、これって」 そこには仲の良さそうな男女と少年少女が写ってる写真だった。 俺が眺めていると横からAIちゃんも見てきた。 「これは家族写真ね」 「…家族写真、でもこれ…」 AIちゃんの面影がある少女と何処かで見た事がある少年が立っていた。 何処だっけ…テレビのような気がする。 しかし、この写真……少し違和感ある。 両親らしき人と少女はにこやかに笑ってるのに少年だけが無表情だった。 AIちゃんはなにか知ってるみたいだから聞こうと周りを見渡したら、AIちゃんは部屋の隅にあったゴミ箱を漁っていた。 だっ、ダメだよ!!AIちゃんはアイドルなんだからそんな事しちゃ!! AIちゃんを止めようと近付くとAIちゃんはゴミ箱からなにかを取り出した。 …そして目を見開いた。 AIちゃんが手にしてるのは、確か薬師寺煌くんの写真集だった…まだ出て新しいだろう、本屋に広告が貼ってあったのは記憶に新しい。 ……その写真集の表紙がボロボロに引き裂かれていた。 誰がこんな事を… 「……また、やったのね」 「AIちゃん…?」 「彼はテレビの中じゃ完璧人間を演じていても、実際は真逆って事よ」 「……どういう事?」 よく分からず、AIちゃんを見るとAIちゃんは悲しい顔をしていた。 そして物語を語るように話した。 「あるところにお金持ちの家族がいました、両親の仲は円満…兄妹の仲も悪くなかった…しかし兄は変わった人間だった」 この話はもしかしてあの写真の家族の話なんだろうか。 気になって続きを聞こうとしたらAIちゃんの話は止まった。 そこで誰かが部屋に入るドアの音がした。

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