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第十八章・7
「それくらいしか、できることがなかった。許して欲しい」
「許す、だなんて。でも、お父さんはなぜ、お母さんに会ってはくれなかったんですか?」
「言い訳に聞こえるだろうが、奈津美が絶対に会わない、と我を張ってね」
「やっぱり……」
優しいが、頑固者だった母を、幸樹は思った。
それでも夜中に、こっそり泣いている母を見たことが何度かある。
それは、父を想ってのことに違いないのだ。
「お母さんは、病気で亡くなるまで、ずっとお父さんのことを愛していました」
「ありがとう。私も、今でも奈津美を愛しているよ」
二人の会話に、ケーキをぱくつきながら翔が入って来た。
「お父様。今の言葉、天国のお母さまが聞いたら、どう思うでしょうね?」
「多分、殺されるな」
ふふっ、と笑う翔だ。
「お父様、お母様には頭が上がらなかったですからね」
なるほど、と玄馬は考えた。
(気性の激しい正妻の嫌がらせが、幸樹やその母に向けられることを案じて)
だから敬之は、積極的に幸樹母子に関わることを控えたのか。
そのように、推察した。
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