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「今日から担任を受け持つことになりました、相沢です。えー、教師1年目なので、みんなに迷惑かけるかも知れませんが、1年間、よろしくお願いします」  新しいことを始める日は、妙に緊張する。  教育実習でも浴びたはずの40人分の視線が、今は少し重荷で。  けれど、窓際1列目の2番目の席が空白なことに気付いて、ようやく真新しい名簿を開いた。  担任をさせてもらえると知った日にも、嬉しくて何度も何度も開いたけれど、今日はその時よりも気分が高ぶっている気がする。 「じゃあまず出席をとります」  1番から名前を呼んで、2番目ですぐに返事が途切れた。 「赤井朋弥、は……欠席、か?」  連絡無かったけどな、と呟けば、遅刻じゃないですか、とどこかから声がして、じゃあまぁいいか、と次に進む。  それ以降はスムーズに進んでいた出欠確認を、半ばくらいで遮ったのは、そろそろと開いた教室のドアで。 「…………赤井朋弥?」 「っ……はい」  ゆっくりと、しかもこっそりと入ってきた生徒に言えば、一瞬ギクリとした後で素直に頷く姿に笑って見せた。 「遅刻だよ」 「すいません」 「とりあえず早く座って。空いてる、その……二番目ね」  素直な返事をして行動するのを、よしよし、と見つめていれば、また? と後ろの方にいた、確か櫻木とか言う頭良さげな生徒が優しく笑いかけて、赤井の方も、うん、なんて照れ笑いを返したりしていて。 (…………なんか…………ヤな感じ)  何考えてんだ、オレ。などと思いつつ、赤井が席に着いたのを確認してから、出欠確認を再開した。 「朋弥くん、途中まで一緒に帰らない?」  聞き慣れた声に顔を上げてから、孝治くん、と笑い返して。頷きかけてからハタと思い出すのは、体育館からの帰り道でのことだ。 『後で職員室来てね』 『ぇ、なんで……』 『新学期早々遅れてきたでしょ?』  にっこり笑って、後でね、と去っていった先生の姿は、なんとなく友達みたいだった。  そんな風に思い出しながら、ごめん、と呟く。 「職員室行かなきゃ駄目なんだ」 「なんで?」 「んー……なんか、遅刻したから、そのせいだと思うけど」 「待ってるよ」  にっこりと笑って即答してくれた孝治くんに、ありがとう、と笑って。 「けど、いつ終わるか分んないし……いいよ、先帰ってて」 「そう?」 「うん」  ごめんね、と謝ってから、軽い鞄を肩に提げる。 「じゃあ、明日ね」 「うん、明日」  見送ってくれる孝治くんに手を振って、職員室へ。  失礼します、とドアを開けて先生の席まで足早に歩く。 「先生」 「え? おー、来たの」 「来ましたけど」  えらいじゃん、と笑う顔は、なんとなく優しい。 「じゃ、手伝って」 「は?」 「遅刻したでしょ?」 「しましたけど……」 「だから、手伝ってよ」 「何を」 「プリント運ぶの、手伝ってよ」  多くて困ってたんだ、と苦笑する先生を、一度マジマジと見つめてから 「……お説教……じゃ、ないんですか……?」 「ぇ? して欲しいの?」 「いや、そんなんじゃない、です、けど……」 「じゃあいいじゃん」  ケラケラと笑う姿に、なんとなく首を傾げつつ、促されるままにプリント運びを手伝った。

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