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最終話「ハッピーエンド」

「悟史くん、私のこと...まだ好き?」 「え?す、好きだよ!」  日曜日、デート日和。前を歩く加奈子の突然の質問に慌てて返す。 「私わかるの。悟史くん私のこと好きって言ってくれるけど、私の好きと悟史くんの好きは違う。付き合い始めた時は同じだったと思う。でも最近変わったような気がするの。」 「そ、そんなことないよ!」 「そうかしら。...ねえ、気づいてる?悟史くん今日ずっと学くんのことばかり話すのよ?ほんとにずーっと。正直嫉妬した。それに、さっきだってせっかくのデートなのにぼーっとしちゃってたじゃない。」 「そ、それは…」  何も言い返せなかった。今思えばそうだった気がする。学に告白された日から妙に意識してしまっている自分がいる。普段通り過ごせているつもりでもうまく隠せていなかったんだろう。せっかく加奈子さんとのデートなのにどうしてしまったんだろう。 「ねえ...別れない?悟史くん私を通して学くんを見てるんだもん。それが分かっちゃったの。そんな中付き合っても辛いだけでしょ?」 加奈子は少し涙ぐんだ声がバレまいと少し眉に力を入れ、少し俯いた。 「それなら…仕方ない、か。そっか、加奈子さんに辛い思いをさせてたのか。ごめんね。」  何が仕方ないだ。あんなに加奈子さんのこと好きだったのに別れ話をこんなにあっさり受け入れるなんて。なんでだ? 「じゃあ最後にアドバイス!悟史くん、あなた学くんのこと好きよ。私のことよりも、ずっとね。」 「ま、まさか!」  そんなことはないはずだ。確かに学とは一番長く一緒にいてお互いのことよく分かっているつもりだ。だけど俺が学のことを好きなんじゃなくて学が俺のこと好きなんだろ?加奈子さんはなんでそんなことを? 「…覚えてる?文化祭の時私が人に押されて転びそうになったとき助けてくれたよね。私が悟史くんを好きになったのはこれがきっかけだけどこれだけじゃないの。私、悟史くんが学くんと楽しそうに話している姿に惹かれていったの。とても輝いて見えたの。私がこの人の隣にいれたらなんて思うようになったの。だけど隣にいる今、そんな姿は見せてくれない。今思うと隣にいるのが学くんだったからそう見えたのかもしれない。だからもういいの。あなたが笑っててくれば私がとなりにいなくたっていいの。あなたには学くんが必要よ。」  ハッとした。確かにそうだった。学といる時間がどんな時より楽しかった。心にある数々の思い出には学がいた。辛い時だって共に支え合った。学の居ない学校はとてもつまらなかった。そっか、勝手に男同士は友達の好き以上はないんだと思い込んでいた。俺、本当は学のこと友達としてじゃなくて… 「ほんとだ。俺、学のこと好きみたい。ありがとう。気付かせてくれて。」  早速伝えに行かなきゃと悟史は加奈子の元を走り去っていくのであった。  残された加奈子は笑っていた。ちょっと悲しそうに笑っていた。 「彩香に言われた通り。悟史くん本当に運動以外できないのね。自分の恋心にも気付けないなんて。だからこそ学くんがどれほど頑張ってきたのかわかっちゃう。私が悟史くんと付き合えるようになったのも学くんのおかげなのかも。あーダメね。敵わないなあ。」  悲しんでもしょうがないと、加奈子はすぐにでも流れてしまいそうな涙を抑えて、彩香の元へ電話をかけるのであった。 学はすることもなく、家でのんびりしていた。 「おーい!学いるー?」  突然の窓の外からの声に驚き、戸惑いつつも窓を開け声の主を見る。やはり悟史だった。走ってきたのだろうか、肩が上がっている。 「中入れてー!」 そう手を振るのでちょっと待っててと窓を閉める。どうしよう。木曜日に告白して振られたばかりなのだ。金曜日は怖くて休んでしまった。お前には気まずいという感情はないのか。そう言いつつも待たせると悪いので開けるほかなかった。 「よっ!久しぶり…ってほどでもねぇか 。」  普段と変わらない態度に心が揺らぐ。もう今までのようには関われないと思っていたのだ。 「で、どうしたの?宿題はないはずだけど。」 それは他の友達に確認済みだ。 「俺、加奈子さんに振られた!」 「はあ!?なんで!?」  悟史は頭を掻きながら苦笑いで答える。 「私より好きないるでしょって。お前のことキモいなんて言ってごめん!俺のことキモいって言っていいから!どうやら俺、お前のこと好きみたいなんだ。なんだかんだあったけどお前いないとダメみたいなんだよ。お願い!俺と付き合って!」  そう悟史は笑う。 「ズルいぞ!馬鹿!」  学は強く悟史を抱きしめた。  春はもうすぐそこまできている。

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