49 / 50
第49話
「ありがとう、純一君。もう、これで思い残す事はないよ」
服を着ると、士郎君は笑った。
「君は城の外に出て、ユープ隊長が来るのを待っていて。俺は……ここで大好きな花に囲まれて死にたいんだ……」
「士郎君……」
僕も服を着て、泣きながらその身体にしがみつく。
「純一君、大丈夫だよ。俺たちは2度も逢えたんだ。また逢える日が必ず来る。その時は……誰も憎まず、誰にも憎まれず、誰からも愛される俺になって君の傍に帰って来るから……」
そう言って、士郎君は僕に口付けると、僕から離れていく。
「さぁ、行って、純一君」
「士郎君……っ……」
僕に背を向ける士郎君。
もう、振り返る事はないんだろう。
「…………っ!!」
僕も士郎君に背を向け、庭を後にした。
城の入口辺りまで移動した頃、庭の方から銃声が聞こえた。
僕は……来た道を引き返していた。
「士郎く……」
庭の、ステアの花の前に、士郎君は倒れていた。
まだ温かい身体。
けれど、胸から大量の血を流しているその心臓は止まっていた。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!!」
血がついていたけれど、その顔は安らかで、笑っているように見えた。
「ジュンイチ!!」
僕が士郎君の身体に縋りついて泣き叫んでいると、ユープの声が背後から聞こえてきた。
「ユープ、僕は……僕は……っ!!」
「コーバス殿から話は聞いた。何も心配しなくていい……」
僕を優しく包んでくれるユープの身体。
この腕の中で他の男の事を考えて泣いているのに、ユープは僕の髪を撫で、背中をさすってくれた。
「サンデル殿」
僕を腕の中に収めながら、ユープはもう動かない士郎君に深々と頭を下げた。
「ジュンイチの生命を守って頂き、心から感謝致します。俺は貴殿に代わり、必ずジュンイチを幸せにします」
「ユープ……」
その横顔を見ていると、急にお腹が痛くなっていく。
「うぁぁぁぁっ……!!」
今まで感じた事のない痛みだった。
これが……陣痛……??
「ステアさん、大丈夫ですか?ちょっと見せて下さい……」
お腹を抱えてうずくまっていると、コーバスが駆け寄ってくる。
「これは……もうすぐ産まれるかもしれません。ユープ殿、手伝って下さい」
「あ、あぁ」
僕のお腹を触ったコーバスはこう言って、ユープに次々と指示を出していった。
その日の夕方、僕は士郎君と一緒に寝ていた部屋でふたりの男の子を産んだ。
ともだちにシェアしよう!