1 / 30

第1話

「どうする?ネットで映画か動画でも観る?」 買い物袋を胸に抱いた光は隣で買い物袋をぶら下げて歩く晶の横顔を笑顔で見ながら嬉々とした声で話しかける。 「そうだなあ...」 晶はまっすぐな瞳で正面を見、互いに元は光がバイトしていたダイニングバーに晶もバイトを始めた為に久しぶりの2人の時間、夕飯は何にしよう、とスーパー帰り。 2人で選んだ新しいマンションに引越し、二週間が過ぎた。 「あ、でも海外ドラマもいいね!それに...」 「光!光、前!」 「え?」 晶を見つめ会話していた光は正面から歩いていた人物と体当たりしてしまった。 「あっ!」 衝撃から胸に抱えていた食材の入ったビニール袋がアスファルトに投げ出される。 「あ...特売でやっと買えた卵....」 99円という安さから、おばちゃん軍団に押し潰されそうになりつつ、ようやくゲットした卵を拾い上げるとパックの卵の半分近くは割れていた。 「ごめんね、怪我はない?」 スーツ姿の長身な男性が卵のパックを手に泣きそうになっている光の向かいにしゃがんだ。 「はい...卵は重症...というか死亡しましたが...」 両手に置いた卵のパックを切ない瞳で見つめ、肩を落とす光に男性が笑った。 「今日、特売だったもんね、確か。僕も会社帰りでこれからスーパー行く予定だから、もしあったら買って渡そうか?」 20代半ばだろう、優しい笑みを光は見つめたが。 「無理ですよ、おひとり様、1パックでした」 「僕は卵は余っているし、大丈夫だよ」 座り込んでいる光の肩に晶は手を置いた。 「半分は無事だし、というか、前向いて歩かないから...すみません。ほら、光もぶつかって来たのは光なんだから」 晶に促され、光はアスファルトに投げ出された食材はそのまま立ち上がり、すみません、と頭を下げた。

ともだちにシェアしよう!