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第30話
「んー、スーツ似合わないなあ」
パーティ直前。
姿見の前で晶と一緒にパーティの為に買いに行ったスーツに身を包む光が左に体をくねらせたり、右にくねらせたりしながら、口を尖らせた。
「類さんくらい、タッパや背中が広ければね」
「タッパも背中も狭くて悪かったな」
ぶすくれた光の背後に晶が抱きついた。
「そんな光が好き。大好き。一生懸命で、誠実で、明るくて、頼もしくて、優しくて」
「...かいかぶりすぎだよ」
「まだ足りない?光だけの魅力。負けず嫌いで、我慢強くて、料理上手で...」
「も、もういい」
「...また泣いてる?」
「泣いてない!」
そう言いながら薄ら涙目の光がいる。自分を背中から抱く、晶の手首を握った。
「俺、俺も好きだよ、晶。大好き」
「うん...」
光の肩に晶は顎を置いた。そして、
「ちょっとこっち向いて、光」
きょとん、と光が翻し、晶を向いた。
晶はそっと、光の左手の薬指にシンプルなリングを嵌めた。
「結婚指輪はまだ先になるけど、ずっとゴージャスな指輪にするから」
晶の左手の薬指にも同じ指輪が光っている。
光は暫し、手の甲を広げ、真新しい、晶からのリングを見つめた。
「もう泣かないでよ?光」
「...泣きそう」
そう言うと、光はジャケットのポケットから何かを取り出した。リングケースだ。
開けると、晶の指輪とはデザインは違うが、シンプルな指輪が光っていた。
「...確かに、これは泣くかも」
同じときに同じようにペアリングを用意していたと知り、光どころか晶も涙ぐみそうになった。
「結婚指輪はまだ先になると思うけど、その時はうんと奮発する。受けとってくれる...?」
光からの問いに声にならず、ただ頷いた。
光がゆっくり、晶の左手を持ち、薬指に指輪を嵌めた。2人分の指輪で二輪になった指輪。
どちらからともなく、時間いっぱいまで、深い口付けを交わした。
「ずっと一緒だよ、これからも。ずっと、ずっと」
一生、忘れないだろう、涙味の少ししょっぱいキス。
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