30 / 30

第30話

「んー、スーツ似合わないなあ」 パーティ直前。 姿見の前で晶と一緒にパーティの為に買いに行ったスーツに身を包む光が左に体をくねらせたり、右にくねらせたりしながら、口を尖らせた。 「類さんくらい、タッパや背中が広ければね」 「タッパも背中も狭くて悪かったな」 ぶすくれた光の背後に晶が抱きついた。 「そんな光が好き。大好き。一生懸命で、誠実で、明るくて、頼もしくて、優しくて」 「...かいかぶりすぎだよ」 「まだ足りない?光だけの魅力。負けず嫌いで、我慢強くて、料理上手で...」 「も、もういい」 「...また泣いてる?」 「泣いてない!」 そう言いながら薄ら涙目の光がいる。自分を背中から抱く、晶の手首を握った。 「俺、俺も好きだよ、晶。大好き」 「うん...」 光の肩に晶は顎を置いた。そして、 「ちょっとこっち向いて、光」 きょとん、と光が翻し、晶を向いた。 晶はそっと、光の左手の薬指にシンプルなリングを嵌めた。 「結婚指輪はまだ先になるけど、ずっとゴージャスな指輪にするから」 晶の左手の薬指にも同じ指輪が光っている。 光は暫し、手の甲を広げ、真新しい、晶からのリングを見つめた。 「もう泣かないでよ?光」 「...泣きそう」 そう言うと、光はジャケットのポケットから何かを取り出した。リングケースだ。 開けると、晶の指輪とはデザインは違うが、シンプルな指輪が光っていた。 「...確かに、これは泣くかも」 同じときに同じようにペアリングを用意していたと知り、光どころか晶も涙ぐみそうになった。 「結婚指輪はまだ先になると思うけど、その時はうんと奮発する。受けとってくれる...?」 光からの問いに声にならず、ただ頷いた。 光がゆっくり、晶の左手を持ち、薬指に指輪を嵌めた。2人分の指輪で二輪になった指輪。 どちらからともなく、時間いっぱいまで、深い口付けを交わした。 「ずっと一緒だよ、これからも。ずっと、ずっと」 一生、忘れないだろう、涙味の少ししょっぱいキス。

ともだちにシェアしよう!