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第29話
「そうだ、2人ともこれから時間ある?肝心な物、忘れて来ちゃったや」
類の言葉で、2人はスワッピングのあの夜以来に2人のマンションに来ている。
晶は閉ざされたドアを見ただけで顔からボンッと火を吹きそうだ。
マフィの極太のお陰で数日、腰とケツを痛めた光は忌々しい、とばかりに眉間に皺を寄せている。
「光、晶、これ」
類からシンプルな白い封筒をそれぞれ手渡され、キッチンに立っていたマフィからレモンの輪切りが浮かんだレモンティがストローを刺され、カウンターに置かれた。
開けると、何やら招待状のようだ。
「マフィと僕の店、Grazie、イタリア語でありがとう、て意味なんだけど。試食会も兼ねた、パーティなんだ。2人にも来て欲しくて」
笑顔のマフィの隣で、類も説明しながら微笑んだ。
「Grazie...ありがとう...いい店名ですね」
「ありがとう」
「あっ、それと光」
光が食い入っていた招待状から視線を上げた。
「晶から聞いたかもしれないけど。Grazieで再びよろしくね。晶ともども」
「....それって...?」
「晶から聞いてなかったかな?僕が店長、マフィはオーナー。またあの店と同じように光に頑張って欲しいんだ、Grazieで心機一転、てところかな」
「そ、それって...また、店長と働ける、てことですか...?」
「嫌かな?」
光は歯を食いしばり、涙ぐみながら、首を大きく横に振った。
「良かった。晶、光がまた泣きそうだよ」
類が晶に声を掛けると、慌てて晶は光の顔を拭った。
「う、嬉しく、て...!ありがとうございます!」
光の涙ながらの覇気のある声に、類もマフィも笑顔を浮かべた。
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