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第16話

鬱屈とした思考は更なるマイナス思考を誘発する。 トラウマを引き戻し、落ち着かず視線を彷徨わせてると視界に白い花びらが入り込む。 窓越しに小さな花片が風に流れて空を舞っている。 桜だ。 部屋は裏庭に続く通路側にある。 この家には主庭と園路、そして裏庭に桜の木が植えてあるのだ。 家族は主に主庭の桜を楽しむ傾向にあるが、自分は裏庭の桜が好きだった。 花開こうが散ろうが誰も裏庭の桜には目を向けない。 裏庭の春を愛でるのは自分一人だけ。 美しい桜たちを独り占めしている贅沢な気持ちになる。 人の気配も無く人目が無いので、裏庭は自分だけの特別な場所になった。 辛い事や悲しい事があると何時も桜を見上げて、その美しさに癒された。 忘我の境地で開花する桜を見ていると、僅かな時間だが何もかもを忘れる事が出来た。

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