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第17話

一瞬の死をそこで体験する。 そうして、何とか立ち直る。 巡る四季の中で例え桜が咲いて居ない季節でも、満開の花を何度も思い出し癒された。 その記憶があるから、再生の場所だと体が覚えていた。 だから、いつも裏庭の桜の木を見上げた。 幸いなことに今は桜の時期だ。 ――裏庭は、再生の場所なのだ。 あの場所に行けば、きっと救われる。 衝動的に外に出たいと思った。 出なくてはならないと窓から離れ、パジャマの上にカーディガンを羽織る。 泣きはらして、疲れて放心して。 空っぽの頭でドアノブを掴む。 その時は殆ど何も考えていなかった。 おぼつかない足取りで導かれるがままに、部屋を出た。 辛くて桜の木の元へ足を向ける瞬間は、死に場所を見つけてそこに辿り着く行為に似ていた。

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