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朝比奈 錦
時折強く吹く風に枝を揺らしながら、ハラハラと花弁が舞う。
見事な桜だ。
木々の隙間から見えるのもまた桜。
花の濃淡を見上げていると、体が随分と冷え切っている事に気が付く。
麗らかな春の日とは言え、風は冷たい。
ぶるりと体が震える。
どれ位の間、こうして花に心を委ねていたのだろう。
泣き腫らした瞼や熱を持つ頬がすっかり冷える頃には、随分と穏やかな気持ちになっていた。
熱をぶり返してもいけない。
そう考え自嘲を浮かべる。
少し前まで、死にそうな思いで裏庭に来たと言うのに。
部屋に戻ろう。
その前にもう一度桜を見上げる。
頭上を覆う春の息吹に視界一面が霞む。
名残惜しくはあったが、いい加減部屋に戻らなくては風邪をひいてしまう。
後ろ髪惹かれる思いで桜に背を向けようとした時、風に乗り男の声が聞こえた。
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