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神様

家族の視線は、常に攻撃的で嘲笑と敵意を含んでいた。いっそ凶器とも言える程に鋭い視線と、誹りの言葉を容赦なく突き立ててくる。 奥深くまで突き刺さる侮蔑の念は、尖ってて、冷たくて。痛くて、苦しい。 そして、そのまま彼らに何度も心を殺された。 愚鈍ゆえに人に嫌われやすい質ではあった。 初対面の筈の朝比奈家の世話係の視線も、奇異な動物を見るそれだ。 しかし朝比奈 錦だけは違った。 何色も浮かべず、静かにこちらを眺めて来る。 あんな綺麗な瞳は始めて見た。 透き通る瞳は波一つ経たない湖面を思わせた。 嫌われたり煙たがられる事は慣れていたので、初対面の付人の冷眼でさえ当たり前のものとして受け止めていたが、錦の一言ですべて否定された。 転んで薄汚く汚れて、まともに挨拶も出来ない自分は見苦しいとしか言いようがない。 しかし、錦は見苦しいのは罵り詰る父や兄達だと突き放した。 自身の従者にさえ彼はその鋭さを緩める事はしなかった。 向けられた非難は不当な物だと瞳を据えて彼は言った。 ――謂れの無い非難に謝る必要も傷付く必要なんてない。 現実はそう簡単にはいくまい。 しかし、あの綺麗な瞳に見つめられると反論する気も無くなり小さく頷く。 ――貴方は悪くない。だから、堂々とすれば良い。思いつく限りの言葉で言い返せば良い。怖がらずに抵抗すれば良い。 間違ってるのは彼らだ。 そう言われた時、声を上げて泣きたかった。 苦しくて嬉しくて、そして、彼がその瞬間に自分にとっての神様になった。

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