132 / 218
第1話
夕日で赤く満ちた客室に入り、テーブルを撫でる。
使用されない客室のティーセット。
飾られる事の無くなった百合の花。
週末に誰も座らない椅子。
「錦君」
呟くが返事は当然無い。
錦が何時も腰かけている椅子に座る。
そこから自分の定位置を見つめる。
錦から見て、どんな風に見えたのだろうと今更考えるが分かる筈は無い。
きっと、錦を前にすれば嬉しそうな顔をしていただろう。
錦。
錦……。
「あぁ……ああああああああああああああああああああ」
頭を掻き毟り蹲る。内側から抱えきれない程のエネルギーが溢れて爆発しそうだった。こめかみが脈打ち絶望と怒りに支配される。
何もかもを壊したいほどの破壊衝動が渦巻き自らを飲み込んでいく。
時間をかけて築き上げた錦との仲を邪魔された。
救いの手を取り上げられた。それだけではない。
自分は錦の救いになれる筈だったのに。
それをあともう少しと言う所で希望は引き裂かれたのだ。
何故何時もこの家の人間は自分を苦しめるのだろうか。
踏み躙られ、荒らされて壊されて、打ち捨てられた。
ようやく見えて来た世界の美しさを、濁った水で満たして汚したのだ。
ともだちにシェアしよう!