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白百合は枯れた。透明なはずの水は濁ってしまった。
茶会を境に、錦に会う事が出来無くなった。
彼と会うことを禁じられたのだ。
その後、錦が秋庭家を訪問することは無かった。
脆弱な自分の精神状態を不安視した家族が体裁を気にした結果だ。
――予想もつかぬ出来事だった。
何故、どうして。
頭に浮かぶのは、そればかりだった。
如何すれば良いのか分からなかった。
無様に這い縋りつく事しかできなかった。
両親や兄につれなく振り払われ続け明確な回答を得る事は出来ない。
完全に行く手は塞がれてしまった。
時間と共にすり減り、次第に荒れ果てていった。
感情のままに怒鳴り散らし暴れた。
普段大人しい子供の剥き出しの感情に、両親は酷く驚き狼狽えた。
もともと、縁談は朝比奈家と秋庭家の利害が一致したことから組まれたものだ。姻戚関係が約束された未来があれば、結びつく個人の意思など関係なく、また関係構築の為に交流を重ねる必要などなかったのだ。
つまり秋庭家に足を運び続けたのは錦自身の意志であった。
猛烈な怒りを感じた。
家の役目を果たそうと使用人を従え秋庭家を訪問した錦は、その後の週末は優しさと好意で足を運び続けたのだ。
家柄を盾に力で従える訳でもない。
心を砕き打ち解ける為だけに、この家を訪問し続けた。
縁談相手に対する義務的な意味合いも勿論あっただろう。
それでも、共に過ごした時間を振り返れば打算を働かせていたとは思えなかった。
純粋に、良好な関係を築くために歩み寄りをしていたのだ。
それなのに、錦が秋庭家に足を運んだ時間を無駄だと言う様に――両親たちは冷酷にも――全て無かったことにしたのだ。
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