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第3話
どんなに苦しくても朝になれば日は昇り夜には落ちる。
幾度となく繰り返される規則正しい世界。繰り返して繰り返して螺旋になり体を縛るのは、筆舌に尽くし難い悲しみと孤独だ。
錦が居ない世界は、色彩を欠き薄暗い。
美しさの欠片も無く酷くつまらない。
震えを押さえ寒さに耐える。
歯を食いしばり白く舞い散る季節をやり過ごせば雪を割り芽が息吹く。滴り落ちる冷たい水に打たれ硬い蕾が開く。
数多くの生命が逝き同じくらいの生命が生まれ、春が来る。
淡く霞む程の桜が咲き、艶やかに散る。
錦とは過ごせなかった夏が訪れる。
淫雨の日々は頭痛が酷くて憂鬱になる。
雨は嫌いだ。
錦も、同じだった。雨は好きではないと呟いた。
でも、もしも彼と雨に打たれる季節を眺めることが出来たなら。
濡れた紫陽花の色も陰鬱とはまた違った世界に見えた筈だ。
雨が上がり、乾いた空気が肌に絡む。
そして、彼が病に伏せた夏の盛り。やはり今年も彼は居ない。
それでも変わらず凌霄花の鮮やかな季節に蒼空が美しい。
割れんばかりの蝉の鳴き声が渦巻き、やがてからからになった残骸が地に落ちる。怒りを抱えながらも身を縮め、灰色の四季を無感動に眺めれば、終止符を打った季節が訪れる。錦と会えなくなった季節が巡る。
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