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第10話
「あっ」
やってしまった。
シャツにドレッシングを落としてしまった。
ドレッシングだけではない。
ぼんやりとしていた所為で皿からレタスの欠片が床に落ちている。
幼稚園児でも、もう少し綺麗に食べるだろう。
何となく、恥かしくなるが注意をする者はいない。
寝坊したから朝食のテーブルには自分一人だけだ。
向かいにも、横にも誰も居ない。
静かな空間は人の気配はない。
平日の午前だから、皆学校や仕事で留守をしている。
自分は今日も学校を休んだ。
家族の中に居ても、常に孤独だったのだから特に何かを思うことはない。
家族の中に居ても学校の教室でも家でもいつも一人浮いていて、孤独だった。
傷つけられるくらいなら、孤独の方がましだ。
孤独は優しく寄り添い、消して傷つけることはしない。
誰かと居れば、痛みを伴う。
しかし一人は寂しくても痛くはない。
むしろ物理的に無人の方が、気楽だとも感じた。
気楽に思えば、誰かといることの幸せを知った事を思い出す。
そうだ、気楽だったのだ。でも、錦との出会いが全てを変えたのだ。
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