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第13話

窓の外を花弁が舞う。 噎せ返るほどの桜色に染まる景色。 無人の客室で、一人でアリアを口ずさむ。 錦が好きな音楽を一つでも知りたくて興味が無かったオペラも聴いた。 定位置から錦が何時も腰掛けていた席を眺める。 一人分の紅茶を入れて、錦に語りかける。 誰も居ない部屋に虚しく声は響く。 苦しい時、どうすれば良いのかは知っている。 彼を思い出せば良い。 彼と同じテーブルで紅茶を飲んだ記憶を引き寄せる。 眼を閉じれば、錦がそこに居る。 眼を開かなければいつまでもそこに居る。 幸せだった。 しかしその幸せはすでに過ぎ去った過去のものなのだ。 過去を巻き戻しているに過ぎない。 二年前に出逢い、それから それだけだった。 恋による痛みを知った。 離れることの辛さも、その人の幸せを願うことも初めてだ。 人生において、恐らく彼の以上に特別な存在など永遠に現れない。 二年経った。 錦は、元気に過ごしているだろうか。 時折、この家での思い出に浸りながら懐かしんでくれているだろうか。

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