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第14話

あれから、錦の背はどの位伸びただろう。 容姿は如何だ。美貌が失われている事だけは想像ができない。 年齢的にもまだ、あどけなさは抜けないだろう。 声はどうなった。 幼い子供の声はどのように変わったのだろう。 鈴を転がした様な声は成長と共に必ず失われてしまう。 声だけではない。 年月と共に変わる物は多いだろう。 それでも高潔であり続けるだろう彼は、何時かは自分の愚かさに辟易し見捨てるのかもしれない。 それでも、――錦だけだ。 彼しかしないのだ。 錦の側でなら、息が出来た。 彼以外の吐く言葉は棘だらけで汚れている。 彼以外は汚れた水なのだから、だから自分は常に苦しかったのだ。 そう言えばあれ以来、楽しいと思う時間を過ごしたことは無い。 彼の側だけが居場所だと感じた。 今は息苦しいばかりだ。 幸福な思い出と、彼の欠けた日常。 ただ彼が側に居ない事を嘆く。 生まれて初めて好きになった相手。 今でもまだ好きな相手。

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