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第16話

錦の纏うピンと張りつめた空気は冷ややかではあるが清らかさがある。 冷たくて澄んだ水は何物も住むことは出来ない。 不可侵の美しさと強さで満ちている。 硬質で、近寄りがたい。 でも、気を許した相手にはとても優しかった。 優しくて、気高くて、そして他の誰よりも綺麗だった。 思い出の中の錦は、百合の花越しに白いカップを傾ける。 清潔なシャツ、隙の無いスーツ姿。 卒の無い受け答え。 そして、自分にだけ見せた困った様な顔。 ほんの少しだけ緩む目元。 照れて赤くなる頬。 救い上げてくれた言葉の数々。 小さな唇が名前を呼ぶ。 黒く大きな虹彩に吸い込まれそうな眼差し。 ――貴方は悪くない 戦う事を教えてくれた。 抗う事を知らしめてくれた。 「錦君」 唇に乗せ味わう甘露。 「錦君」 形の無いお守り。

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