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第17話
錦の一挙一動、彼に関わる些細な事で一喜一憂していた頃、確かに自分は無邪気な子供と言えた。
崇拝は予想通り目の前に居ない彼を求めて脳内で腐らせる。
閉じ込めた頭の中で異臭を放ちながら、形を変えていく。
まさに知恵の実に歯を立て楽園を追放される無知な子供だった。
理想郷の中で守り続けていた美しい偶像もまた夢と同じく、楽園が消失すれば消えていく。
最も柔らかく穢れを恐れた錦への信仰は、自分自身が彼に近づけると信じた時には既に腐食し始めていた。
体を蝕む病の様に悪魔は気配も足音も無く忍び寄る。
錦は腐る自分とは違う。傷むことも熟すことも知らず、艶やかで硬質な青い果実の清らかさで、そこにあり続けるのだろう。
比べて、二年の歳月を得て子供の殻を破ろうとするこの体は当然ながら変化を始め、そして恐れていた事が起こる。
忘れていたはずの生臭さが、徐々に満ちてくる。
それが何か理解した瞬間の絶望は筆舌に尽くしがたい。
誰でも無い、自分自身を裏切ったのだ。それは、唯一無二と認めた彼も傷つけるものだ。
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