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第10話

海輝が帰るのは未だ先だけど、菓子作りや旅行の準備に何が必要か考えていると、時間を忘れてしまいそうなほどに楽しい。 海輝に手作りの菓子の事を話したくて堪らないのだが、彼が帰省し部屋に入るまでは我慢するのだ。 部屋に入って、寛いだ所で振る舞う。 きっと驚く。 サプライズになるのだろうか。 そんなことを考えて、玄関まで海輝を出迎えるのだ。 海輝は、何時ものように錦に笑いかける。 海輝が「ただいま」と言うから、錦は「お帰りなさい」と返す。 そのやり取りが、大好きだった。 そうして彼は「久しぶりだね」と錦の頭を撫で「会いたかったよ」と言いそっと抱きしめる。 最初こそ抵抗をしていたが、抵抗してもしなくても海輝はいつも楽しそうに錦を抱きしめる。 馬鹿らしくなり抵抗を止めると、体を包む清潔な香りと体温は酷く心地良く感じた。 父と母に彼は「ただいま」とは言わない。 ご無沙汰しております。 そう、外行きの笑顔で挨拶をする。 そして暫く厄介になると言った内容の挨拶を他人行儀の顔でするのだ。 母はいつも「ここは貴方の家でもあるのよ。ただいま、でしょう?」と苦笑する。それに対し、海輝は微笑むだけだ。 彼にしては、些か頑なにも思える。 父に対しては更に他人行儀な態度を取る。 質問形式の会話が殆どだ。 簡単に学業やアルバイトなどの私生活を報告する。 質問されたことに海輝が答える。最低限で味気ない会話だ。 帰省した時に父と母に何故「ただいま」と言わないのかと聞けば、「僕が帰るのは錦君の所だから。君がこの家に居ないならここに用はないよ。もし、君が入院してたら其方に行ってただいまって言う。この家で世話になるから、家主へのお礼と挨拶はしてるから問題ないよ」 海輝らしい屁理屈だ。 父と母も特に咎める事は無かったので錦もそんなものかと納得したものだ。

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