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第23話

「おー、クロイゼン! 嫁さんもらったってマジか?」  その男はセイジュに与えられた部屋にノックもせずにずかずかと入り込んできて開口一番そう言った。  不幸中の幸いは、二人がいたしている最中でも事後でも事前でもなかった、ということだった。  この日、セイジュは体調が優れず、あの部屋には行かずにベッドで休んでいたのだった。  もちろん、クロイゼンは当然のように添い寝していた。 「アヴィリード、おまえまた死に損なったのか」  意識は少々ぼんやりとしていたが、セイジュは驚いていた。  あの、プライドが高く天上天下唯我独尊プリンス・クロイゼンに対して、こんなにカジュアルに話しかける存在がいた、というのが一点。  そして、それに応じるクロイゼンの顔に、これまでとは違う笑みが浮かんでいることだった。 「んで、どんな美女を射止めた? 失礼するぜ」  アヴィリードと呼ばれた男は、遠慮も躊躇もなく、閉じていたベッドのカーテンをばっと全開にした。 ——どうしよう、俺が男で人間だって分かったら、クロイゼンはこの親しげな友人さえ失ってしまうかもしれない!  セイジュが布団を被ろうとしたのを、クロイゼンが止めた。 「こいつは大丈夫だ、セイジュ」 「え?」  ベッドの前に立っていたのは、シクロフスキと同じくらい長身で、黒髪はバサバサで手入れがなされておらずどこか獣を連想させる男で、その眼はいつ何時も自分自身を曲げない、と宣言するように輝いていた。  そして、身に纏っているのは、これまたシクロフスキと同じ、近衛兵の制服だった。が、アヴィリードはシクロのように正しく着用しておらず、前のボタンも留めずにまるで羽織り物のように肩に掛けているだけだった。 ——なんかワイルドな人来た。  朦朧としながらも、セイジュはそう思った。小並感め。

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