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第54話:茶番

「クロイゼン、ここにいるの?!」 『テレパスだけだ。そこは亜空間といって俺以外のクリーチャーは絶対に侵入できない安全地帯だ。だが、その物理の方、おまえも見ただろうが、ふわふわとした毛に覆われた本体、あれごと奪われたら意味がない』 「え、は?! それむしろ不利じゃん!」 『安心しろ、あんあ堕天使の一匹や二匹、今の俺ならコンマ二秒で片付けられる!』 「……なんか、クロイゼン、テンション高くない? 今ピンチでしょ?」 『い、いや、別に、そんなことは……』 「どっちでもいいから、早く帰ってきて! お願い! 怪我とかしないで、俺の所へ帰ってきてよ!!」 『もちろん、そのつもりだ。あと少しだけ待ってくれ』  テレパスが途切れた瞬間だった。  ふっと、椅子に腰掛けていたセイジュの身体に、床が跳ね上がったような感覚が走った。 『セイジュ様! ご無事ですか?! シクロフスキです!』 「シクロさん!」 『王子はこちらへ向かっています! ベッドにいた堕天使も始末いたしました! フラフィの中から出てこられますか? あ、フラフィというのはその空間のことです!』 「えっと……どうやったら出られますか?」 『フラフィの中に、王子の剣があるはずです! それで内側から——』 「そこまでだ、シクロ」  聞こえたのは他でもない、クロイゼンの声だった。 「堕天使は始末した? んだよ、おまえら最初から組んでやがったのかよ。セイジュくーん、騙されるなよー、ストーカーまだ生きてるからなー」  続いたのはアヴィリードの声だった。 「クロイゼン! アヴィさん!」 「セイジュ、もう少しそこにいてくれ。こいつらを片付けたら目一杯可愛がってやる」  クロイゼンの魔力がフラフィ内のセイジュにも分かるほど強化したと思いきや、  ぱんっ  と、乾いた銃声が鳴り響いた。

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