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第65話:ダイアログ

「家族旅行で来たんだよ、両親と妹と、四人で。人間の国から。十一か十二歳の時だね。港でウォルズの大地に足を付けた途端、なんか身体全体に力がみなぎった感じがしたんだ。今でもよく覚えてる。でも、その時はウォルズの波動とかそういうことをよく理解してなかったから、初めての海外旅行で気分が高まっただけだと思ったんだ。でもウォルズの森林や川や滝、特に山頂の、野原や川やラリーハリーが見える所に行ったら、もう完全に波動が効いちゃったんだろうね、もう俺はここで生きてここで死ぬんだって悟っちゃった。悟るっていうか決めたっていうか、気づいたっていうか。家族のことはね、大好きだったよ、本当に。でもウォルズから離れるなんて選択肢は、もう俺の頭から消えてたんだ。親は油断してたんだろうね、波動を。『ウチの子に限って!』って。でも、知識として理解はしてたから、俺の意志を尊重して無理矢理に人間の国に連れて帰ろうとはしなかった。感謝してるよ。だって、もしそうじゃなかったら、こうしてクロイゼンと出会えてなかったんだから」 「ならば俺もおまえのご両親に感謝だ。ご挨拶に伺ったり両家の顔合わせを、とも考えたのだが、人間の国は他の種族とのコミュニケーションにさほど積極的でないと聞く」 「うーん、まあそうかもね。俺もあんまり記憶がないけど、人間ってだけで肌の色が違ったりっていう理由で内紛が多いんだ。っていうか、クロイゼンの方はいつどうやってその、俺を娶るって決めたの? 実は俺よく分かってないんだけど」 「……それを聞くか……」 「え、なに、なんかやましいことでもあんの? 場合によっては今流行の『婚約破棄』ってのをやってもいいよ?」 「…………」 「ちょ、そんな深刻な顔で黙んないでよ」 「……れだ」 「え?」 「あーもううるさい! 一目惚れだ!! 最初は白い鳩の格好をしておればどんな奴がどんな対応を取ってくるか見てやろうと思っていたがな、おまえに拾い上げられて顔を見た瞬間惚れた! 性別や種族や年齢などどうでもよかった!! どうだこれで満足か!!!」 「…………ま、満足です」

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