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第64話:逆転とかいう次元じゃなくてだな
セイジュはぽかんとしていた。
ウォルズ王国の国王と王妃が待つ部屋の扉を進んでみると、そこにはどう見ても十代の金髪の少女と、その腕の中に同じく白髪の赤ん坊がおしゃぶりをくわえてこちらを見遣っていたからだ。
——クロイゼンって兄弟いたのかな?
セイジュは首を傾げたが、クロイゼンは彼らにこう声をかけた。
「父上、母上、約束通り私の婚約者を連れて参りました。名はセイジュ、人間です」
「えっ?!」
「セイジュ! 頭をさげんか!」
クロイゼンが少女と赤ん坊に向かってセイジュの後ろ頭をがっと降ろした。
『まあ、そこまでさせるな、クロイゼン。本当の姿の我々を見て悪魔の国王と王妃と看破できる者はそうはおらん』
『そうよ。それよりセイジュさん、お会いできて嬉しいわ』
「え! あ! はい! クロイゼン、さん、の、こここ婚約者、セイジュと申します!!」
『あらあら、こう見るとセイジュさん、口角が鋭いし八重歯はあるし、耳も少し尖ってるから、私たちより世間がイメージする悪魔に近いわね! クロイゼンと並ぶと特に、どっちが悪魔か分からないわ』
『言い得て妙だ! はっはっは!』
——それって笑っていいところなのかなぁ……。
セイジュは内心で涙を拭った。
「婚約の発表に関しては明日の午後にでも、と思っていたのですが、情報が漏洩し過ぎていて、もしかしたら今日の午後になるかもしれません。父上、母上、ご同席をお願いできますでしょうか?」
『もちろんよ!』
『愚問だな』
「ありがとうございます。では後ほど」
一礼してクロイゼンに続き部屋を出たセイジュは、胸を押さえてその場に膝から崩れ落ちた。
「セイジュ?!」
「あーあーあー緊張、したぁぁあああ!!! っていうか国王様ってあんなルックスじゃなかったよね?! っていうかおしゃぶりしてたよね!? どういうことなの?! んでもって王妃様なんてまだ子供じゃん!! もうわっけ分からない!!」
「逆だ、セイジュ」
「え?」
クロイゼンが真顔で訂正する。
「赤ん坊は母上で、抱いていた少女が父上だ」
これを聞いたセイジュはまた絶叫するのだが、その叫び声は残念ながら誰にも届かない。
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