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第63話:息子さんに僕をもらわれてください
「いやぁ、一晩で随分なことになったなぁ」
「めでたいんだか気の毒なんだか……」
「シクロフスキ近衛兵隊長が反逆者だったとわね」
「軍や近衛兵の犠牲者はあれど、王子の婚約者、しかも人間が王子の命を救ったらしいじゃないか!」
「その人間、オスらしいが、あのクロイゼン王子のことだ、きっと跡継ぎのことは何か算段があるのだろうな——」
セイジュはガチガチに緊張していた。
黒いタキシードに正装し、真っ黒の髪の毛を整えられて、履き慣れない革靴は心地悪いことこの上なかったが、そんな物理的不快感よりも、精神的な緊張感の方が勝っていた。
「リラックスしろ、セイジュ。父上は分かってらっしゃる。伊達にウォルズ王国を十九万年統治しているわけではないぞ?」
横に立っているクロイゼンはプラチナブロンドの髪を掻き上げる。
「わわわわかってるけど、なんか、その、恐くて」
「恐い? 父上はここ数万年で随分と丸くなられた。心配は無用だ。むしろ心配なのは母上の方かもしれぬな」
「えっ」
「おまえのことをたいそう気に入っているとアヴィが言っていた。色々聞かれるかもしれんが、言いたくないことは言わなくていいからな。俺も全力でサポートする。安心しろ」
クロイゼンがセイジュの肩をぽんっと叩くと、まるでそれを合図にしたかのように、目の前の扉が開いた。
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