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2.右へ倣え

 教室には40人ほどの生徒達。男子の姿も見受けられるが女子の方が圧倒的に多い。割合で言えば8割近く。しかしながら、9組に在籍している女子生徒の数は10人。数が合わない。つまりは、他クラスからもやってきているのだ。  目的は単純明快。夢と癒しの獲得だ。対象はルーカス、景介(けいすけ)頼人(よりと)照磨(しょうま)未駆流(みくる)。一人の場合もあれば、複数、あるいは全員と様々だ。色めき立つ乙女達。大半の男子生徒達は辟易して教室を離れているが、一部が意地で残り続けている。そんな状況だ。  好ましくない。女性に対し強い苦手意識を持つルーカスにとっては。けれど、致し方なしと受け入れている。彼らであれば必然であると。 「それはそうとルー、お前まだベストなのか?」 「んっ? ……あぁ……」  頼人に言われて自身の胸元に目を向ける。灰色のシンプルなベストだ。右胸にはエンブレムが縫い付けられている。対する頼人は灰色のセーター。景介も同様で彼に至っては紺色のブレザーまで重ねていた。 「さすがにもうベストじゃ寒いだろ。お前も1日長いんだしさ」  一昨日から昨日にかけて降り続いた雨の影響か、今朝の気温は10℃を下回ってしまった。数日後には最高気温が10℃前後になるとの予報も出ている。  一般的には衣替えを急ぐタイミングなのだろう。しかし、ルーカスは違った。今のままでも問題なく、むしろちょうどいいとさえ思っていた。人一倍寒さに耐性があるからだ。出身地、境遇、努力の甲斐もあって。  そのため、本音を言えばこの服装のまま1年を終えてしまいたい。だが、実際のところ折れざるを得ないだろうと思っている。何せ空手家の頼人までもがセーターを着用し始めているのだ。  少しでも周囲に溶け込みたい。目立つことなく生きていきたい。そんな考えを根強く持つルーカスにとってみれば、現状を貫くことの方が苦痛でならなかった。 「あ~、うん。だからその……明日の販売会で買おうと思ってるんだ」  式典ではブレザー、ライトブルーのワイシャツ、(夏季を除き)灰色のベストを着用するよう義務付けられている。だが、普段は別だ。ワイシャツはライトブルー、アイボリー、ピンクの三種から。ベスト・セーターは白と灰色の二種類から自由に選択することが出来る。 「販売員の人からセーターの色はその年によって結構割れるって聞いてて」 「なるほど。それで様子見てたんだな」 「うん」 「するってーと、……ルーも灰色か」  ワイシャツはライトブルー、セーターは灰色のみ購入する。それが同学年・男子の主流となっていた。ご多分に漏れず景介と頼人も。 「うん。灰色にする。サイズは思い切ってLLにしちゃおうかなって。背も大分伸びたしね」  ルーカスは入学当初から順調に背を伸ばし158センチ→173センチにまで成長。ベストはLサイズを購入していたため丈足らずにならずに済んだが、サイズ感としてはぴったりで流行りのゆったりとした着こなしをするのにはややボリュームが不足していた。 「そうだよな~。お前、本当に背ェ伸びたよな」 「へへっ、まぁ頼人には及ばないけど――」 「白だろ」 「えっ……?」 「んっ……?」  唐突に反論してきた。驚き、戸惑う二人を他所に景介は続ける――。

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