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3.頑なに
「……白? ……あっ」
セーターのことか。
「えっ? 何で?」
ルーカスに代わって頼人 が訊ねる。
「……分かんだろ」
答えになっていない。頼人が再度問うが結果は同じだった。
「いや、それじゃルーも納得しないだろ」
彼の言う通りだ。同調すれば景介 の機嫌が悪くなるのは目に見えている。だが、やむを得ない。ルーカスにもまた譲れない理由があるのだ。
「ケイも頼人も灰色だし」
「合わせる必要なんてねえだろ」
「……しっ、白はちょっと……オレには派手過ぎるっていうか……」
「あ?」
「白ってその……いっ、イケイケな人向けじゃん?」
一概には言えないものの白のセーターを着ているのは人気者であったり少々ヤンチャな生徒であることが多かった。ルーカスの周囲でも着用しているのは照磨 と未駆流 の二人。――と、この事実だけでもルーカスが灰色を選択するのには十分な理由が揃 っていた。
「文句なんて言わせねえよ。もしもの時は俺が黙らせて――」
「ああ! なるほど」
頼人には見当がついたらしい。したり顔で景介を見て口元を押さえて笑う。
「確かになぁ~……。同じ色だと不便だもんなぁ~」
「不便?」
頭を働かせてみたもののまるで手応えがない。疑問の上に疑問が重なっていく。
「~~っ! お前なぁ」
「俺らはエンブレムのとこで見分けられるけど、お前らはそーもいかねぇもんな」
――エンブレム
――見分ける
「あっ……」
理解した。頼人は取り違いを危惧しての提案。いや、強要であると解釈したようだ。
「そうだね。確かにこれまでにも――」
「~~っ、だから、ちげぇって言ってんだろ!!」
凄まじい眼力。照れ隠しだろうか。
「しょーがないなぁ……」
艶やかで棘 のある声。今となっては聞き馴染みのある声だ。背後から聞こえてくる。振り返ると案の定照磨の姿があった。
「僕のを貸してあげるよ」
「ほっ、本当ですか!?」
ルーカスとしては願ったり叶ったりだ。確かに取り違いの懸念はある。けれどそれもラベルなりに名前を書くなどすればある程度は防げるだろう。
一方で、ビジュアルへの対処は容易ではなく成功する保証もない。そのことを示すのに試着は迅 速かつ確実な手段であると考えたのだ。
「あっ、ありがとうございます! それじゃお言葉に甘えて――」
「ダメだ」
また始まった。ルーカスは内心で項垂れる――。
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