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4.晒されるカラダ、君のやさしさ
「店にあるのでいいだろ」
「販売会って結構混むんだよ? 無駄に待つよりここで試しておいた方がいいと思うけど」
「結構です」
「はぁ?」
照磨 は2年生だ。販売会も経験してきている。故に信頼に足ると思うのだが景介 はまるで聞く耳を持たない。理由はただ一つ。照磨であるからだ。
彼に弟子入りをして半年近く。写真家・指導者としてのひたむきさ、温かさが垣間見えるエピソードを逐一話して聞かせているのだが――このザマだ。
長く険しい和解への道のり。無論、諦める気などないがゴールに至るのは不可能であるような気もしている。
「そんだらオラのを着ればいいだよ」
いかにもな似非 方言が聞こえてきた。身構えるも時既に遅し。
「っぽ~~~ん!!!!!!!」
背後に立った男はルーカスの両手を素早く持ち上げ――ワイシャツとベストを剥 ぎ取った。
「~~っ!?」
「わぁ~おっ♡♡♡ いーカラダしてるじゃ~~ん??」
「我喜屋 先輩!!!!!!!!!」
「わわわわっ!!!!!!」
両手で胸を隠し、身を縮める。途端に上がる悲鳴。いや、悲鳴と呼ぶには高揚の色が強いか。
――心躍る瞬間を1枚でも多く収めたい。
そんな情熱のもと磨かれた身体に下卑 た視線が絡みつく。
「脱いだらすごいって、あれマジだったんだね~」
「~~っ!!」
堪らず組んでいる腕に力を込めた。皮肉にもそうすることで上腕三角筋、力こぶが強調されてしまう。
「うわぁ! 腕すっご……」
「ちょっ! み、見すぎだって」
「ハーフだから? やっぱ日本人とは違うんだねぇ~」
「……っ」
青の瞳がじんわりと歪む。
――分かってる。
――そんなこと。
溢 れかけた反発の声を涙と共に押し込んでいく。
「えっ……?」
不意に何かに包まれる。ブレザーであるようだ。
「さっすが~」
感嘆の声が上がる。頼人だった。背もたれにブレザーをかけ直しながら後方に目を向けている。視線を辿 ると灰色のセーター姿の景介がいた。
顔は見えない。それでも怒っているのが見て取れた。空気がピリついているのだ。尋常ではないレベルで。対象は無論未駆流 だ。理解しながらもついたじろいでしまう。
対して未駆流はというとなぜかルーカスの方に目を向けたまま固まっていた。真意は不明だ。気味が悪い。これ以上被害を被るのはごめんだと素早く目を逸らす。
「みみみっ、見ましたか今の!?」
密やかに投げかけられる女子生徒の問い。出所はルーカスの背後、二席ほど離れたところにいる四人組みの女子グループからであるようだ。その声は不自然なまでに跳ね上がっている――。
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