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6.甘く、酸っぱい、その理由
「ありがとね、ケイ」
「いや、俺の方こそ。アイツには後でキツく言っておくから」
放課後わざわざ未駆流 を捕まえてか。労に見合うだけの成果はおそらく得られないだろう。景介 のストレスが嵩 むだけだ。結果は目に見えている。
「はぁ……っ」
景介も同じ思いでいるのだろう。重々しく溜息をつきながら中身が半分以上残った弁当の蓋 を閉じた。
それを合図に手を伸ばす。指先が弁当箱に触れかけた刹那 待ったをかけられる。
「いい。部活前にテキトーに食うから」
「あっ、そっか。そうだよね」
半・昼抜きの状態で部活動までこなすのは至難の業だ。当然の選択と言える。
「……ったく」
授業が始まっても景介は切り替えられずにいるようだった。しかしそれは彼だけではない。ルーカスも同じだった。
景介が白のセーターにこだわる理由。それを考えていくうちに思い付いてしまったのだ。甘く酸っぱいその理由を。景介があの場で頑なに理由を明かさなかったこととも結びつき真実味を帯びていく。
人目を憚 らず直ぐにでも真相を聞き出したい衝動に駆られるが既 の所で堪 える。たった6時間程度の辛抱。以降は翌朝まで一緒。チャンスなどいくらでもあるのだからと。
――それぞれの部活動を終え、景介と共に帰宅した。景介は手洗い・うがいを済ませるなりブレザーを脱ぎセーターの袖 を折った。調理をするためだ。ルーカスは反対も同意もしていない。そもそも問われてすらいない。
当たり前になっているのだろうと思う。ルーカスに手料理を振る舞うことそれ自体が。立ち入る隙 はまるでない。それでもダメ元で問いかけてみる。
「けっ、ケイ? オレにも何か――」
「ここはいい。他にもいろいろあんだろ。風呂とか、洗濯モンたたむとか」
「あ、あぃ……」
肩を落として踵 を返す。だが、動けない。一緒に料理をする。そのことについては諦めがついた。けれど、これだけは譲れない。
――確かめたい。
――今すぐに。
以前は3年も待てたというのに。微苦笑を浮かべながら振り返る。
「セーターのことか?」
「えぁ……っ」
察しがいい。想定していたのだろう。
「あっ、ははっ……うん」
改めて思う。
――敵わないと。
「ごめん。しつこいよね」
「ルー」
答える代わりに名を呼んできた。慈しむように。そっと頭を撫でるように。
――確信した。
頼人 の読みは外れていると。
「カラコン外してこっち来い」
「あっ……うっ、うん」
言われるままコンタクトを外して景介の隣に立つ――。
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