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第二話『小豆を求めて』
「え~~!? また品切れぇ~!?」
僕は愕然として注文履歴を眺めた。
ダンボール箱の中には注文していた食材や衛生用品がギッシリと入っている。
でも肝心の小豆 が入っていない。
手にした注文履歴の用紙には『十勝産小豆 品切れ』の赤文字。
ぶん太の『なんですとおおお――!?』という悲痛な叫び声が聞こえてくるようだ。
「ぜったい楽しみにしているのにな」
ユキちゃんだって目をキラキラさせていたし。
「十勝産にこだわったのがいけなかったかな」
近所のニコニコスーパーには間違いなくある。
十勝産じゃなくても国産ならこの際いいし。
「うう~。ご飯も炊いちゃったのに」
(あー、もどかしい! すぐそこなのに)
「そうだ。じいちゃん」
じいちゃんは屋敷に結界を張れるってことは、小鬼とか出てもやっつけられるんじゃないのかな?
祖父の宗一郎さんは神尾神社の宮司 だ。
五十代後半の彼はスラッとしたクールなイケオジだ。
ずっと鍛えているから腹筋も割れている。
弓道とかやっている。
ちなみに僕の腹筋は割れていない。
最近知ったんだけれど、じいちゃんと士狼たちは仲良しだ。
『士狼殿、鴉 殿。いい酒が手に入ったのでまた飲みましょう』なんて食卓で気安く話をしているのを見た時は目を丸くしてしまった。
なんと、幼い僕が寝ている晩に大人たちはばあちゃんの手料理で晩酌をしていたらしいのだ。
じいちゃんはもちろんのこと、ばあちゃんも視 える人だったらしく。
京都に旅行中にあやかしに襲われていた若かりしばあちゃんをじいちゃんが助けたのが馴 れ初 めらしい。
そして、じいちゃんに一目惚れしたばあちゃんがこんな山奥までついてきて、猛烈アタックの末押しかけ女房になったんだそうだ。
若い頃は美男美女でさぞかし絵になっただろうな。
う~ん、ロマンティック!
いやいや、それはいいんだけどね。
シロは僕が見ていないところでは士狼の姿になっていたらしいし、鴉 さんもこっそり遊びに来ていたそうなのだ。
『ず、ずるい! なんで僕の前でも士狼になってくれなかったの!?』
僕がそう言うと、士狼はくつりと笑い言った。
『宗一郎とおみつと約束をしていた。十八歳になったお前に公平に選ばせるためだ』
『そんなの……ッ』
『それに、言葉を交わすと愛しさが募 るだろう。十八になる前にお前を攫っても良かったのか?』
艶っぽい目で見つめられて、僕はうぐぐと黙る。
『俺がどれだけ待ち侘びていたか、お前には分かるまいよ』
ふっと笑ったその顔がものすごくカッコ良かったのを思い出して、僕は一人で熱くなった顔をブンブンと横に振った。
(全然分かんないよ~ッだ!)
僕はそうこうしつつ、じいちゃんを探して神社の表を覗いた。
(あ、いた!)
袴姿のじいちゃんは女子学生たちにキャッキャと囲まれて破魔矢とかおまもりの説明をしている。
合格の報告に来る子たちで忙しい時期なんだな。
うーん。しかめっ面なのになんかモテてるなあ。
お仕事の邪魔しちゃ悪いよね。
僕はそっと裏口にまわった。
今日はどうしても小豆 をゲットしたい。
近所のスーパーは歩いて約五分のところにある。
走れば三分くらいだ。
小豆 を買って帰るくらいなら平気な気がした。
僕は走るのだけは早いし。
それに、繋がりを結び直したのなら何かあれば士狼が飛んで来てくれるはずだ。
『禊 の間は外界と遮断されている。お前の声でも聴 こえにくい。絶対に屋敷から出るな。大人しくしておれ。良いな?』
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2021.7.24
ニコ
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