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1.スラム街の闇医者と落ちてきた片翼の天使①

 とある世界のとあるスラム街での事である。闇取引や人身売買などが横行しているその街の、親のいない子供たちが集まるちょっとした空き地に、『天使』は空から降ってきた。 「なんだ……? この人、随分キレーな格好してるな」 「ホントに。でもなんで、こんな所で寝てるの?」  薄汚れた衣服を身に纏った子供達がざわざわと集まりだす。スラム街に生きているとはいえ、まだ幼く夢があり、正義感というものが生きている子供達だ。その、天使……金の長髪に同じ色の長い睫毛、真っ白い陶器のような肌にシルクのような肌触りの布を身に纏った人物(人ではないが)の、そちらも美しく薄い口元に顔を寄せて様子を伺うと、それは『う、ううん』と呻き声を上げた。だから子供達は思ったのだ。 「この人、寝てるんじゃない! 倒れてるんだ!!」 「えっ、てことは具合でも悪いのかな!?」 「こんなところで、こんなキレーな人が倒れてたら、大人達に売り飛ばされかねないよ! ねえ、先生の所に連れて行こう!!」  そこまで言って頷きあう子供達。『先生』とは、このスラム街で闇医者をしている、とある人物の事なのだが……。子供たちの中でも割りかししっかりした一人が『本当に、先生で良いのかなぁ?』と少々の疑問を抱いたが、他の子供達は細身のその人を数人で抱きかかえて、さっさと『先生』の元へと、連れていってしまった。 ***  ヤクモ・スガワラはスラム街に生きる闇医者である。法律が機能していないこの街で、売人などから法外な医療費をふんだくっては治療をしてやっている、何も知らない子供達から見たら、スラム街のヒーロー的存在だ。と、いうのもこのヤクモ、『ガキは嫌いだ』と言いつつも、親のいない子供達の面倒を、何かと見てやっているものだから子供たちに好かれてしまうというもの。漆黒色、伸びっぱなしの前髪はその鋭い釣り目を覆うくらいまでで、後ろの襟足も、肩に付くほどまで伸びてしまっている。街の人間に舐められないため、一応本当の医者のように薄汚れた白衣を着ているが、その下は真っ黒な、ロック趣味の私服である。  そんなヤクモが今日も巻き煙草をぷかぷか浮かせて、診療室と言う名の彼の住処で寛いでいると、スラム街の細い道の奥、その場所に、いつもの子供達の騒がしい声が聞こえてきた。即ち……、 「先生ー! ヤクモせんせーい!!」 「先生ってば!! いるんでしょ先生!!?」  チッと舌打ちをして煙草を灰皿に置き、ヤクモは立ち上がる。いつも診療室に屯している、ガキ共の声だ。どうせまた、行き倒れの人間でも連れてきたんだろう。と、ボロボロになった診療室の扉をガタ、ガタガタン!と乱暴に開け放って、ヤクモは子供達を向かえた。 「っるせーな、どうしたガキ共。病人か」 「!! センセイ、この人が空き地に倒れてたの!! 見てあげて、」 「ああ? 空き地に???」  と、そこで子供達が抱えている人物(人ではないが)を見て、ヤクモはハッとする。その人物が、こんなスラム街とは縁遠そうな、それは美しい金髪のものだったからだ。子供達からそれをパスされるとヤクモはいい匂いさえ香らせるそれにまた『チッ』と舌打ちをして、仕方が無く診療室に連れこむ。子供達もぞろぞろと三人ほどが、同じく診療室の中に入って来ていた。

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