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第1話
『愛音』
今日は休日だった彼と、1LDKの彼のマンションでずっとふたり。
風呂上がりの部屋着で彼のベッドで談笑する。彼の横でうつ伏せに寝転がり、青井愛音は求人雑誌をペラペラと眺めた。
彼は愛音のすぐ隣で肘つきで寝転がり、そんな愛音の様子を見つめてる。
「愛音」
彼に名前を呼ばれると愛音のまだ繊細な心は、いつでもトクンと小さく揺れる。
振り向かずに愛音は、「うん?」と答えた。
彼が愛音の髪に指先で触れる。こっちを向いてと言うように。
それでもまだ、ただめくるだけの雑誌から目を離さない愛音。
「ずっと、考えていたことがあるんだが。」
彼の低音の声色は、彼に向かない愛音をゆっくりと追うように優しく話し始めた。
愛音はその声色にめくる手を止めた。
「なに?」
にこやかに微笑んで、愛音はようやく彼に向く。
くるんと大きな愛音の瞳と、彼の切れ長で今は少しはにかんだような瞳がピタリと合う。
トクンとさっきよりも少し大きく愛音の心が跳ねた。
彼は穏やかに愛音を見つめてる。顔にかかる愛音の柔い栗色の髪を愛音の耳後ろまでどかしながら。
そして彼は言う。ふうっとわずかに息を吐いて。
「嫁に来ないか」
愛音の眺めていた求人雑誌が、彼の手でパタリと閉じられた。
「ー…?嫁?」
「ああ。」
同性の恋人にそれを告げた彼の真っ直ぐな瞳は、なおもきょとんと彼を見つめているだけの愛音を捕らえて離さなかった。
「結婚しよう、愛音。」
日常は変わらず、また今日になる。
朝方5時。
いつもと同じ朝。
今日も愛音は彼の朝食と弁当を用意して、まだ眠っている彼を起こさないように、静かに彼のマンションから帰宅した。
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