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急な呼び出し
『ちょっと相談がある。今日時間取れない?』
充彦を仕事に送り出し、いつものように汚れたシーツを洗おうと洗濯機に放り込んだ頃、スマホにメッセージが届いているのに気づいた。
送信者を確認し、『相談』という言葉に少し胸がざわつく。
冗談めかした愚痴は言っても、あまり周囲に相談なんて事をしない人間だ。
一人で抱え込もうとする、それを悟られまいとする、そして事態はおおよそ悪い方に向かう──これまでの経験で、この流れがデフォルトだと知っている。
一言相談してくれていれば、それほど面倒な事にもならなかったのに!という事態が起きた事も少なからずあった。
その極力『相談』を避けたがる人間からの『相談』となれば、もうすでに一人では抱えきれなくなっているのだろう。
何か命に関わるような問題になってなければいいが…と、『今日はいつでも行ける。今から行くか?』と返事を送った。
これは洗濯どころではないかもしれないと、返信を待つ間に急いで服を着替え髪を整える。
いつでも出られるぞ、任せとけ!と前のめりに身支度を整えた俺の意気込みを挫くようなメッセージが届いたのは、それから30分ほどしてからだった。
『ごめーん、二度寝してた。おやつ用意してるから、2時過ぎにでも部屋来て』
***************
指定の時刻になり、部屋を出てエレベーターに乗り込む。
押したボタンは1階ではなく──うちの3階下のボタン。
無機質な到着音と同時にエレベーターを下りると真っ直ぐに廊下を進み、突き当りの部屋のインターフォンを鳴らした。
その途端、確認の応答もなく『待ってました』とばかりに扉が開く。
目の前に立っていた慎吾は、ムカつくほどの満面の笑みだった。
「いらっしゃーい。急にごめんね」
「別に急なのはいいんだけど…相談事なんて言われてちょっとビックリしたわ」
ほんとはちょっとどころではなく、かなり心臓がバクバクして痛いほどだったという事は内緒だ。
相変わらず過保護すぎると大爆笑されかねない。
「ごめんごめん。とりあえず上がって」
促されるまま玄関に進む。
先客がいるのか、そこには見慣れない靴が二足揃えられていた。
「勇輝くん、来たで〜」
リビングに向かって声をかけると、パタパタと軽やかな足音が響く。
ひょっこりと現れたのは、我が心の天使──ヒカリくんだ!
「勇輝さん、こんにちは!」
「ヒ、ヒカリくんも来てたのか。久しぶり」
目一杯平静を装ってみるが、ほんのり言葉を噛んだ気がする。
ただの挨拶なのにカミカミとか、ただの不審者みたいだけど、相手がヒカリくんなので仕方ないと諦めた。
あー、今日も今日とて、眩い…尊い……
「勇輝さーん、俺もおるんやけど」
部屋の奥から少し低めの棘のある声がする。
なるほど、いつものメンツが集まってるのかとヒカリくんの頭をポンポン叩くとスリッパに足を突っ込んで廊下を抜けた。
予想通りリビングには、顔だけ見ればスーパー爽やかイケメンの翔くんが座ってた。
俺を見る目がほんのり憐れみを帯びてるような気がするから、たぶんヒカリくんにデレデレなのが表情に出てるんだろう。
コホンコホンとわざとらしく咳をして、慎吾に持ってきた紙袋を差し出す。
「オヤツとか書いてたから、充彦が置いてった試作品のフィナンシェ持ってきた。なんか、砂糖の代わりにデーツのペーストとか使ってるみたい」
「マジ!? そんなん、食べさせてもうてええん? 嬉しーっ。航生くんがティラミス作ってくれてるから、それ食べようと思うててんけど、なんかめっちゃ豪華なティータイムになりそう」
「あ、そしたら僕、紅茶淹れますね。アッサムにローズジャム添えてみましょうか?」
「ヒカリ! 俺はコーヒーな。あんまり酸っぱないやつ、濃いめで」
「えっと…僕コーヒーは何があるかあんまりわかれへんし……」
「ああ、俺やる俺やる。んもう…翔ちゃんもたまには動きや」
まだオヤツタイムにも入っていないのになんだかやたらと賑やかで、おれは早くもお腹いっぱいになっていた。
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