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それは俺の役目ですか?

「ちょっと何言ってるかわかんない」 AV男優の俺が、ボーイズ・ラブ専門レーベルのスーパーバイザーってどういう事!? そもそも、スーパーバイザーって何すんだよ! 「あー、あんまり難しいに考えんといて。これからは『Still…』レベルの内容の作品を定期的に発表するから、勇輝くんには作品内の絡みについてアドバイスして欲しいねん」 「絡みって…それはお前らのが本職だろ。俺はその辺よくわかんないし……」 「ちゃうちゃう。勇輝くん、根本的な部分が違うんよ。俺らがこれまで作ってたんは『ゲイビデオ』なん。好みは色々あるにしても、あくまでも男性が実用的に使う事を目的にしてる物やねん。でも、これから作ろうとしてんのは、ゲイ男性向けやなしに腐女子とか腐男子って言われてる人と、一般女性向け。実用やなしに、観ててドキドキワクワクキュンキュンさせたいの。そんで、今女性向けAVでエロでもセリフでも女の子をキュンキュンさせてる勇輝くんに、そこら辺監修して欲しいねん」 「アムールのビデオは、よそのんに比べたらストーリーとかキャラクターがしっかり作られてるとは言われてるけど、ゲイビ特有のフォーマットっちゅうかお約束みたいなんはあるからなぁ…」 「ゲイビのお約束は、あんまり萌えには繋がれへんのよ…挿入の時はそこをわざわざアップにするとか、中出しした後にパクパクしてるケツの穴と垂れてるザーメンをドアップにするとか」 「体位も、撮影前提やからルーティンみたいに決まってくるし」 それに関しては、俺も少しわかる。 ビーハイヴに所属するまでは、それこそ男性の実用の為のビデオに出る事が多かったわけで、『綺麗に見せる』よりも『イヤラシく見せる』事が大事、女性が気持ちいいかとか気持ち良さそうかなんてのは二の次になってた。 実際、快感度外視で乳房を鷲掴みにしたり、濡らしてもないヴァギナにいきなり指突っ込んで『ほんとは気持ちいいんだろ』なんて囁いたりってのはごく当たり前だったし。 女性向けAVを主戦場にするようになって、改めてあの現場で求められてた行為は男性『だけ』が喜ぶ自分勝手なファンタジーだったと実感してる。 面倒は避けたい、相手に自分の理想を押し付けたい、自分のやりたいようにだけ動きたいという、男性本意──エゴイズムの集約だったと。 今ビーハイヴが撮ろうとしている物は『心から女性が気持ち良いと感じるセックス』であり、同時に『お互いを思いやり、心身共に満たされるセックス』で、実は女性のみに向けた物じゃない。 そう考えれば慎吾たちの目指すビデオは、ターゲットこそ女性と掲げてはいるが、『愛し合う本当に気持ちいいセックス』を見たいゲイにだって需要はあるのではないだろうか。 心から愛されて幸せな、愛してあげたいと貪欲な……そんなセックスについて美しく、そして真剣に向き合うというなら、俺もちょっと見てみたい。 「大した事はできないぞ。ここにいる全員、愛されて幸せなエッチについては呆れるくらい知ってるんだから、なんもわざわざ聞く必要ないだろ。俺にできるのは、せいぜい見せ方のアドバイスくらいだからな」 渋々と言った風を装った俺の様子をどう捉えたか、慎吾と翔くんは大袈裟にハイタッチして見せ、ヒカリくんはわざわざ立ち上がって俺に抱きついてくる。 ──あ、これだけで引き受けた甲斐があるかも。 遠慮なくその小さい体を抱きしめながら、充彦に後で自慢してやろうと心のうちでガッツポーズをしてやった。 *************** 「では、勇輝くんがスーパーバイザーを引き受けてくれたってことで……」 「大袈裟!」 「まあまあ。俺らも結構今回の企画に噛むから、勇輝くんに側おってもらえるだけでめっちゃ安心すんねんて。な、ヒカリ」 「はいっ! 勇輝さんからアドバイスもらえるだけで、ものすごく心強いですっ!」 「…………そう?」 あー、ヒカリくんから心強いとか言われるだけで顔ニヤける。 こうなるのわかってて絶対ヒカリくんに話振っただろ……バレバレ過ぎて恥ずかしいわ。 「はいはい、勇輝くん落ち着いてね。ではここから、会議を始めます」 「………………は?」 「スーパーバイザーを迎えたので、これより企画会議を始めます」 「企画会議って、何!?」 「んもう、なんか今日の勇輝くん、質問ばっかりやなぁ」 お前が突拍子もない事ばっかり言うからな!と口に出かけて、とりあえず言葉は飲み込む。 代わりに、『御託はいいからさっさと話せ』と向けた目線に力を目一杯込めてやった。 「一応、シナリオ原案みたいなんはプロにもう以来してんねんけど、ビデオリリースから何作かは企画物にしようと思ってんねん」 「その企画を出せって事?」 「んにゃ、企画はもう決まってる。『○○の考える萌えシチュビデオ』って」 「その○○ってのが、もしかして……」 「イエスッ! 俺ら出演メンバーとスーパーバイザーの勇輝くんが、『もし自分とパートナーが演じるなら』ってシチュエーションを考えて、それを映像にします! 勇輝くんが考えた物は勇輝くんに演じてもらうわけにいかんから、アムール屈指の演技派である龍斗くんなんかに頼む事になるけど、他は案出した本人がパートナーと一緒に出演すんねん」 「自分と充彦さんが演じるならって考えて、ドラマチックでエロス満載の設定、是非教えてほしいです」 ああ…期待に満ちたヒカリくんの視線が痛い…… 俺が絶対ヒカリくんの言葉を拒めないってわかってて、仕込んでやがったな。 覚えてろよ、慎吾……後で航生いじめてやる。 「ちゃんと俺の後、続けて聞かせろよ! 俺だけに恥かかせたら、マジで末代まで祟ってやるからな」 仕方ないと腹を括り、顎に手を添えて目を閉じる。 軽い足音がパタパタと聞こえ、少しすると俺の前には淹れたてのハーブティーが置かれた。

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