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第10話

 酒場に集っていた人々も家に帰り、夜の静寂がシーズの町を包み込む。平和なこの町では、深夜に外出するような者はいない。家々の明かりも消え、一際美しい夜空が広がる。  ルピナスは一人、そんな夜空を見上げていた。白い星と、白い月。少し欠けたくらいの明るさは眩しすぎず、暗すぎない。このくらいの明るさが一番温かい。ふと、そんな月を見上げていた視線を、時計へと移す。 「そろそろかな」  ルピナスはぽつりと呟いて、窓際の椅子の上で瞳を閉じ耳を澄ます。直後、ガタガタと落ち着きのない音が遠くから聞こえだす。それは慌てた様子で部屋を出ると、廊下の壁を擦るような音を立てながらどこかへ向かって歩き出した。その音は、確実にこの部屋に向かっている。ルピナスはゆっくりと瞼を開くと、愉快そうに顔を歪ませた。  そんな邪悪な顔をした男がいるとも知らずに、ふらつく体を必死で奮い立たせていたセイランは、その部屋の戸を叩く。ルピナスはその音を聞くと椅子から立ち上がり、扉の方へ向かう。わざと音を立てて鍵を開け戸を引くと、鍵が開いた瞬間に戸を押していたセイランの身体が倒れ込んでくる。  咄嗟にそれを抱きとめ、ルピナスはセイランを部屋の中に引き入れ、すぐさま部屋の戸を閉め、鍵をかける。腕の中に落ちてきたセイランの身体は小刻みに震え、ルピナスに縋りついていた。 「どうしたの?」 「っ……、からだ、おかしい……っ!」  セイランはやっとのことでそう吐き出した。その声にはしっかり熱が宿っている。ルピナスを見上げる顔は完全に赤く、すでに頭は淫蕩の底に落ちているようだった。どうにか自分で慰めようとしていたのであろう、指先が濡れている。眠る直前だったのか、あれだけ着こんでいたセイランはマフラーやバンダナも外しており、昼間見せるのを拒んだ素肌が下着の隙間から垣間見えていた。しかし暗い部屋では何を隠していたのかはっきりとは見えない。  ルピナスは抱き止めたセイランの欲に染まった顔を眺めながら、楽しげな笑みを浮かべる。指先でセイランの髪を絡め取り、くるくると指を回して毛先で遊ぶ。 「それでボクに頼ってきたの? そういわれてもなぁ、ボクはセイランほど体力ないし、一日にそんな何回もするほど盛ってないし溜まってないんだけど」 「じゃあ、なんでまた……」 「また、って? ボクが術を使ったからとか言わないよね。別の部屋にいたんだよ?」  セイランの表情がみるみるうちに困惑したものに変わっていく。セイランは身体の熱をルピナスの仕業だと信じていた。昼間のものと同じ、頭の奥まで埋めていく衝動。ルピナスに犯されたい、という理解したくない欲求。ルピナス以外に、誰がやるというのか。そう思っていたのに。 「なら、これ、なんで……っ、ぁ……」 「ここ、こんなにしてさぁ。こんな格好でうろうろしてたの? そんなにえっちな顔できるなら、誰か誘ってみたら? 案外抱いてもらえるかもよ?」  不意にルピナスは片腕を下腹部へと伸ばし、すると流れるように服の中に手を突っ込み、勢いのまますでに屹立していた先端に触れる。するとセイランは面白いほどに体をひくんと跳ねさせて、がくりと膝を折ってしまう。同時にルピナスも膝を折り腰を下ろして、先走りを溢す先端を親指で刺激しながら耳元に囁きかける。意地の悪い言葉の数々に、セイランは「言うな」と言うようにふるふると弱々しく首を左右に振るが、ルピナスはそれに対してより歪に頬を歪ませた。 「ボクがいいの? そう言われてもなぁ、ボク疲れてるんだけどなぁ」 「っ、ぅ……」  わざと煽る様に語尾を伸ばしながら、尿道に指の腹を当てうりうりと適度に力を籠める。そこはセイランの体内の熱を伝えるような体温が宿っていた。ルピナスの指が与える刺激の中には痛みもあるはずだろうに、セイランは与えられるものすべてを快楽と拾っているようで、その指が亀頭だけでなくカリ首や裏筋を弄るとより強い快楽を求めるように腰を揺らす。

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