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第11話

 昼間のよりも強い欲がセイランの頭を埋めていた。ルピナスの手のひらにすりと腰を寄せ、ねだるような上目で余裕のある桃色を見上げる。その熱に浮かされた赤紫は、ルピナスのことを誘うことしか考えていない。その赤紫に宿った蠱惑な魅力に飲まれそうになるのを堪え、今すぐにでも暴きたくなるのを飲み込む。 「そんな目で見られても、ボクもう動きたくないんだけど」 「……なら、自分でする、から……。これだけ、貸して……」  ルピナスはこれ見よがしに欠伸をしてみせ、セイランの視線からさりげなく逃げていく。実際は眠くもなんともないのだが、それを見抜く余裕はセイランはその仕草を真に受ける。微かに困ったように視線を伏せるが、不意にセイランは自分の手をルピナスの下腹部に伸ばす。セイランの指す「これ」は、ルピナスの性器のことだった。 「……ボクのこと、ディルドかなんかだと思ってる?」 「ご、ごめ……」 「はぁ……、まぁ、いいよ」  じと、と不服な顔をするとセイランは申し訳なさそうに目を伏せる。飼い主に怒られた子犬のようにしょんぼりと肩を落とす様を見ながら、ルピナスは小さくため息を吐くと、その場で立ち上がる。そして、ぺたぺたと足を進めベッドに腰を下ろし、へたりこんだままのセイランに向けて笑顔を作る。 「ほら、おいで? 自分でするんでしょう?」 「ん……」  セイランは床を這って、それこそ犬のようにルピナスの前でぺたんと腰を下ろす。次いでルピナスの足の間に体を入れ、腰に向かって両手を伸ばす。その手は下着にかけられ、ぐいっと下に引きずられる。露わにあるまだ形のないのそれに向かって、セイランはそっと手を這わせる。熱い手のひらを優しく添え、的確な力で握り込むと上下に手を動かしだす。同時にセイランは躊躇なく股間に顔を寄せ、先端に舌を触れさせた。  セイランの舌先は、ちろちろと亀頭をくすぐるように弄り、それから竿を通り根元までしっかり伝っていく。睾丸にも啄むようなキスを落としてから一度口を離し、熱い吐息を吹きかける。その間も手の動きは止めず、しっかり上下に動かされる。明らかに手慣れたセイランの行為に、ルピナスの身体は無意識に形を作っていく。 「は、っ……、ん、ん……」  セイランは一度息を吐き出すと、小さく息を吸い込んで唇を先端に触れさせた。そのまま顔を前に進めて、亀頭を口に含ませる。口内の熱が、粘膜を通して伝わってくる。セイランはそこから奥には進まず、先っちょの一部、カリ首を覆う程度の位置までで止め、ゆっくりと頭を動かす。その動きはルピナスにとってはもどかしいことこの上ない。 「……っ、なんか、」 「ん、ぅ?」 「なんかそれ、生意気」  有意であるのは自分の方だと思っているルピナスにとって、セイランに焦らされている気になることは納得がいかなかった。当然セイランにはそんなつもりは一切ないわけだが、ルピナスはそんなこと知ったことではない。キョトンとして口を離そうとしたセイランの後頭部を、ルピナスは鷲掴む。 「早くこれ欲しいんでしょ? 手伝ってあげる」 「ん……っ、んぐッ」  ルピナスの雰囲気を悟ったセイランは慌てて陰茎に触れていた手を離し、ルピナスの腕を掴むが、時すでに遅し。むしろ手が離れたのをいいことに、ルピナスはセイランの頭を引き寄せ、奥まで口に含ませる。喉奥に当たる苦しさから、セイランの表情が歪む。その程度でルピナスは止まらなかった。 「ぐ、んっ、ンンッ!」 「んふ、セイランのお口あったかくてきもちいよ」  頭を前後に揺すぶられて、苦しさからセイランは身悶えるが、暴れようとはしなかった。ルピナスの手を払い除けることもせず、頭を好きに動かされるのを受け入れていた。  ルピナスは好き勝手に口内を堪能すると、セイランの頭を引いてようやくその口を開放する。飲み込み切れなかった唾液が、舌先と亀頭の間で糸を引いていた。 「はっ、は、げほっ……ぅ、」 「喉犯されて気持ちかった? そこ、ふるふるしてるよ」  ルピナスは噎せ返っているセイランの赤くなった顔をよそに、視線を下に向かわせる。しっかり屹立したままのセイランの自身は萎えることはなく、むしろ快楽に濡れ、身を震わせていた。セイランは一瞬羞恥に視線を逸らすが、すぐにまた上目にルピナスを見上げる。快楽の虜に落ちている濡れた眼差しに、ルピナスは小さく笑う。

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